クリストファー・ノーラン監督『オッペンハイマー』の物語に惹かれた理由
そんな複雑なオッペンハイマーを見事に演じたアイルランド出身のキリアンは、『ダークナイト』や『インセプション』など、これまで5作品でノーラン監督と一緒に仕事をしてきたが、主演を務めるのは今回が初めて。長年、演技派として高く評価されているキリアンは、ノーランに全幅の信頼を置いている。
「脚本を読む前にイエスと言ったんだ。クリスが僕のために役を考えてくれた時はいつもそうだよ。これは全人類にとって、歴史にとって非常に重要な物語だとわかっていた。キャリアにおいてこんな役をオファーされることは滅多にないからね」と振り返る。余談だが、CBSの人気ニュース番組「60 Minutes」に出演したキリアンは、ノーランから手渡されてその場で読んだという脚本を披露している。コピーできないように赤い紙に黒字で印刷された脚本についてキリアンは「ノーランの脚本はいつもそうだ」と語った。 引き受けるのにためらいはなかったとはいえ「とてもチャレンジングだった」というキリアンは、約13キロ減量して、リサーチに没頭。「僕にとって本当に役立ったのは、映画ではまったく触れていない彼の幼少期や人格の形成期について読んだことだよ。それが、大人になってからの彼に大きく影響していて、とても興味深かった。また、キップ・ソーンが若いころオッペンハイマーの講義に出ていたので、講義中の彼の動きや講義の仕方、パイプの持ち方などについて話を聞くことができたのも素晴らしかった。でも、最終的には脚本が主な情報源。リサーチで吸収したものはすべて、サブリミナルな形で持っていることになったんだ」
また、独特な風貌のオッペンハイマーを演じるのに、衣装の果たした役割も大きかったと言う。「ロスに飛んで、衣装や帽子のテストをした。彼は自分を強く意識して、若い頃から自分自身を神話化していた。それで帽子やパイプ、スーツすべてが必要不可欠だったんだよ」