クリストファー・ノーラン監督『オッペンハイマー』の物語に惹かれた理由
一方、戦後オッペンハイマーと、水爆実験をめぐって対立するアメリカ原子力委員会の委員長のストローズを演じるのは、ノーランと初タッグとなったロバート・ダウニー・Jr。アイアンマン役の印象も強いだけに、劇中では一瞬ロバートだとわからないほどの変身ぶり。彼がハリウッドきっての名優だということを、あらためて認識させられる秀逸な演技を披露している。
ノーランの家で初めて脚本を一気に読んだというロバートは、「ほんの数ページ読んだだけで『これは重要だ。なんという贈り物だろう』と思ったんだ。クリスと(プロデューサーの)エマ・トーマスが、僕にこの役を演じることができるってどうしてわかったのか、今でも不思議に思うよ。時々、お互いを信頼しているからこそ、より大きな挑戦ができることがあるものなんだ。感謝の気持ちでいっぱいだよ」と真摯(しんし)に語る。 オッペンハイマーと敵対するストローズを、ロバートはどのような解釈で演じたのだろうか。「おそらく、彼にはかなり尊敬に値する資質があって、生涯国のために尽くした人だったんだ。でも、結果的にどういうことが起きたかを考えると、ちょっと悲劇だね。もし彼が、オッペンハイマーと険悪な関係にならずに仕事ができていたらどうなっていただろうかと考える。いわゆる『悪者』であることを要求されるキャラクターなので、(演じるのに)引き出せることはたくさんあったよ」
さらにロバートは、「(今作には)歴史的意義の重さがあり、僕たちが当時やっていたのは時宜を得たことだった。それを適切に描くのはすごく重要なことだと感じたんだ。特に、僕たちは(劇中で描かれた)出来事が実際に起こったプリンストン高等研究所で撮影していた。だから、歴史の重みに敬意を表しようとしたんだよ」と、もっとも大切にしたことを振り返った。
IMAXで撮影された本作の臨場感あふれる映像は圧倒的で、ゴールデン・グローブ賞は5部門、英国アカデミー賞(BAFTA)は7部門で最多受賞。そして、全米映画俳優組合賞(SAG賞)では最優秀キャスト賞、主演男優賞、助演男優賞を受賞し、さらに全米監督組合賞(DGA賞)、全米プロデューサー組合賞(PGA賞)の映画部門で受賞と賞レースを総なめ。授賞式が3月10日(米国時間)に開催される第96回アカデミー賞では、13部門でノミネートされており、最多受賞になるのは間違いないと見られている。