ホテルに行ったほうが悪い?セカンドレイプはなぜ起こるのか【作家アルテイシアに聞いた】
なぜ女性だけ自衛しないといけないのか
――女性からも「私だったらホテルに行かない」「もしホテルに行ったら何があっても文句は言わないかな」という意見が散見されましたよね。 アルテイシアさん:もし「ホテルの部屋で飲もうよ」と誘われて「いいですね、飲みましょう!」と行ったとしても、同意したのは「部屋で飲むこと」だけ。こんな基本のキすらわからないのは、性的同意についてまともに教えない性教育にも問題がありますよね。本来は「なぜ部屋に行ったんだ」と被害者を責めるのではなく、「なぜ同意をとらなかったんだ」と加害者を責めるべきなんです。 もし「業界の実力者が来るから飲みにおいでよ」と誘われたら、仕事につながるかもしれない、アドバイスがもらえるかもしれないと期待します。飲みに行ったのが男性だったらそういう姿勢は「やる気がある」と評価されますよね。それが女性や弱い立場の人だと「行ったほうが悪い」「枕営業」と二次加害にさらされる。女性には「女は自衛すべき。しないのなら被害に遭ってもしょうがない」と刷り込まれている人も多いですよね。 以前、韓国のアーティストDJ SODAさんが、日本でライブをした際に一部の観客から体を触られた事件でも、「あんなに露出してたら触られて当然だ」という意見がありました。「どんな服装や職業や場所だろうが、同意なくプライベートパーツに触ってはダメ」という基本のキがわかっていない。女が自衛すると「自意識過剰だ」と責められて、いざ被害に遭うと「なぜ自衛しなかった」と責められる。どないせえちゅうねんって話ですよ。
女性を分断させて得をする“ラスボス”は誰?
――なぜ前述したような、女性が女性を責める“分断”が起こるのでしょうか。 アルテイシアさん:女性が女性を責めるのは「長いものに巻かれろ」精神もあるでしょう。男性に対して「セクハラするな」と言うより、女性に対して「セクハラされるほうが悪い」と言うほうが、男尊女卑社会において有利ですよね。男の意見に迎合しているほうが得、わきまえた女でいるほうがラク、というのもあるんじゃないでしょうか。 「私だったらこんなヘマはしない。性被害に遭うような女と一緒にしないで」という心理から、性暴力に声を上げる女性を「被害者ぶるな、弱者ぶるな」と許せない。そういうウィークネス・フォビア(弱者嫌悪)を内面化している女性もいるでしょう。 そうやって女性を分断させて得をするのは誰?と考えてほしいです。「セクハラされる女が悪い」という言葉によって得をするのは、セクハラをしたい一部のおじさんたち。「女の敵は女」と女を分断させて、利益を得るのは権力をもつおじさんたちです。 一部のおじさんたちは、女が連帯して、性暴力や性差別に声をあげるのが怖いのだと思います。既得権益を守るために、この男尊女卑や家父長制度のシステムを変えたくない。だから女同士を戦わせて、真の敵から目を逸らさせたい。私は、そんなおじさんの手のひらで踊らされるなんて真っ平だと思っています。 古代から「分断して統治せよ」という支配の手法があるように、権力者側は市民を分断させて連帯を阻止してきました。おとなりの韓国でも「女は兵役に行かなくてズルい」と女叩きが激化しています。そもそも男に兵役を強いているのは誰?怒りの矛先をそらして、男女を対立させて得をするのは誰?真のラスボスは誰?って考える必要があります。 フェミニズムを学ぶと世界の解像度が上がるので、真のラスボスの姿が見えるようになります。そうすれば無駄に自分を責めなくなって、生きやすくなりますよ。まずは自分がジェンダーの呪いから解放されてラクになるために、フェミニズムを知ってほしいです。 アルテイシア 作家。著書に『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?』『生きづらくて死にそうだったから、いろいろやってみました。』など多数。「オッス、おらフェミニスト!」と高らかに宣言し、親しみやすい軽やかな言葉でジェンダーの問題に関する発信を続けている。 取材・文/高田茉莉絵