米国のFRBに完全否定されていた、黒田バズーカー「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)」。私たちがそのツケを払うときが迫っている
「バリバリの金融実務家であった私が、わからないことがあれば一番頼りにし、最初に意見を求めたのが山本謙三・元日銀理事です。安倍元総理が、もし彼がブレインに選んでいたら、今の日本経済はバラ色だったに違いない」 【写真】米国のFRBに完全否定されていた、黒田バズーカー「長短金利操作」 元モルガン銀行・日本代表兼東京支店長で伝説のトレーダーと呼ばれる藤巻健史氏が心酔するのが元日銀理事の山本謙三氏。同氏は、11年にわたって行われた「異次元緩和」は激烈な副作用がある金融政策で、その「出口」には途方もない困難と痛みが待ち受けていると警鐘を鳴らす。 財政ファイナンスに酷似する日銀の国債買い入れによって財政規律は弛緩し、予算の膨張に歯止めがかからなくなった。異次元緩和の終了による金利上昇によって、今後、国債の利払い費の急増が予想される。はたして、世界最悪レベルにある日本の財政は持ちこたえることができるのか。 ※本記事は山本謙三『異次元緩和の罪と罰』から抜粋・編集したものです。
中央銀行の独立性を脅かすとしてYCCを却下したFRB
FRBは、日銀のイールド・カーブ・コントロール(YCC)やオーストラリアの中央銀行であるオーストラリア準備銀行による3年物国債金利の固定政策の経験を踏まえ、米国の金融政策への適用可能性を討議したことがある。2020年6月のFOMCでのことだ。 その模様は、FOMCの議事要旨に記載されている。日本やオーストラリアの実例を取り扱っているために表現は控えめだが、結論は全否定に近いものだった。日本の現状への示唆も多いので、要点をまとめておこう。なお、FRBは、日本のイールド・カーブ・コントロールなどを「金利に上限、ないし目標を設定する政策」と定義し、YCT(the yield caps or targets)との呼称を与えている。 はじめに、FRBのスタッフから、総括として次の点が指摘された。 (1)信頼できる(credible)YCTであれば、多額の国債買い入れを必要としないかもしれない。しかし、一定の環境のもとでは、大量の国債買い入れを余儀なくされる可能性がある。 (2)YCTのもとでは、金融政策の目標が政府の国債管理政策の目標と抵触する可能性がある。 (3)その結果、中央銀行の独立性が脅かされるリスクがある。 その後、FOMC参加者から多くの意見が述べられ、最終的には「ほぼすべての参加者から、このような政策はコスト・ベネフィットの点で疑問がある」との結論が示されている。以下、多くの参加者が述べた疑問や意見を記す。 (1)出口が近づいてきたときに、FRBのバランスシートの規模と資産構成をどうコントロールしていくのか。 (2)中央銀行の独立性が脅かされるリスクをどうすれば和らげられるのか。 (3)金融市場の市場機能に及ぼす影響をどう評価するか。 (4)民間セクターのバランスシートの規模や構成に及ぼす影響をどう評価するか。 (5)予想物価上昇率や実質自然利子率を計測するのは難しく、結果的に、不適切な金利の上限や目標を設定しかねない。 討議の中で最も注目されるのは、相対的に独立性が強いとされるFRBですら、国債の大量買い入れが中央銀行の独立性を脅かしかねないことに強い懸念を表明している点である。 どんなに「物価目標達成のために行う国債買い入れ」と強調しても、政治や社会は、さらなる国債買い入れを期待してくる。実際、安倍元首相は、就任前も辞任後も、前述の輪転機発言を繰り返していた。それが政治の慣性と考えざるをえない。