150円で誰でも見られた「文春の証拠20点」とは? 「裁判担当記者」が目にした松本人志VS文春“水面下の攻防”
「突然の取り下げ」から1カ月が経過した。 お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志氏が「複数女性への性加害疑惑を報じた『週刊文春』の記事は名誉毀損」として発行元の文藝春秋側に5.5億円の賠償を求めた訴訟。 【映像】150円で誰でも見られた「文春の証拠20点」とは? なぜ松本氏側は訴えを取り下げたのか? 『週刊文春』側はどのような証拠を手にしていたのか? テレビ朝日社会部司法担当 吉田遥記者に聞いた。 ━━そもそも今回はどのような立て付けの裁判だったのか? 「今回は民事裁判だ。松本氏側は記事で名誉を毀損されたとして、発行元の文芸春秋側に対し、5.5億万円の損害賠償や記事の訂正による名誉回復を求める裁判を起こしていた」 ━━訴えに対し、『週刊文春』側はどのような姿勢を見せていたのか? 「関係者を取材したのだが、文春側は終始強気な姿勢で『記事は真実』として徹底的に争う姿勢を示していた。また、今回は民事裁判であるため裁判で提出された証拠は東京地裁で閲覧できるようになっていた」 ━━東京地裁に行けば誰でも見ることができたのか? 「第三者でも150円の収入印紙を払えば見られた。実際私が閲覧した時には、証拠は20点以上あった。例えば、被害に遭ったと主張している女性の証言や女性と松本氏とのLINEのやりとりの写しなど、文春の記事が作られる上での一次資料が証拠として文春側から提出されていた。ただし、訴訟が取り下げられたため今は見られない」 ━━資料などからは具体的にどんなことが浮かび上がってきたのか? 「文春によると女性らは『ホテルの一室に呼び出され、松本氏から性加害を受けた』と主張しているという。一方で松本氏側は『いかなる女性に対しても同意を得ずに性的行為を強制したことは一切ない』とコメントしている」 ━━第1回口頭弁論は3月に東京地裁で開かれたが松本氏本人は出廷せず、その後非公開になった。民事では非公開で進んでいくことは珍しくないのか? 「基本民事は非公開で、第1回口頭弁論の後は原告側・被告側で裁判所で非公開でどのように訴訟を進めていくかという審理が行われるのが通常だ。そのため、今回記者は『今どこまで進んでいるのか』が分からず非公開の審理でどのような話があったのか日々取材を重ねていた」 ━━最初は争う姿勢だった松本氏側が訴訟を取り下げた“きっかけ”は何だったのか? 「タイミングとしては、文春側が先述の20点の証拠など、『こういう取材を経て自分たちの主張は真実だと判断して記事にした』というような主張が一旦全て出揃っており、それに対する松本氏側の反論が出る時だった。まさに8月頃に非公開の審理が予定されていたのだが、それが突然延期になり、記者の間では水面下で交渉が進んで『和解になるのでは』などの噂が流れた」 ━━松本氏側から出た証拠はないということか? 「あったのだが、『記事が事実かどうか』という部分に関する反論は結局出てこなかった。そのため、『まずは被害を訴えている女性を特定してください』というところで裁判が止まってしまっていた。個人的には松本氏側の主張も聞きたかった」 ━━水面下での交渉はスムーズに進んでいたのか? 「かなり難航していた。何度も和解をするという話があったようだが、やはり取材を進めてみると、文春側は『松本氏から女性側への謝罪がないと和解を飲めない』、松本氏側は『それは受け入れられない』として交渉はしばらく難航していた」 ━━民事裁判は和解で着地することが多いとのことだが、今回の『取り下げ』とはどのような着地なのか? 「基本的に和解は裁判所が仲介する場合と当事者間だけで行う場合の2種類ある。このケースでは裁判所を入れずに当事者間での和解交渉が水面下で進んでいた。裁判所を介した和解になると民事の記録が残ってしまう。記録が残ることはある意味お互い回避したかったのでは。そのため、当事者間で話し合いを進めて結果的に取り下げという形になったとみられる」 「そもそも、性加害については強制性の有無を直接に示す物的証拠はないということで合意しており、なおかつ公表された松本氏本人による謝罪文を被害女性が確認し、取り下げ合意に至ったという」 ━━文春側としても裁判を続けるメリットは少なかったのか? 「やはりこのまま裁判を続けると証人尋問が開かれ、被害女性が法廷に立って証言しなければならない。その精神的な負担に加えて、裁判を続けても松本氏側からの謝罪は得られないのではないかという判断もあった。松本氏側としても、やはり早期の活動再開というのが第一にあったため、裁判の長期化は避けられないということで取り下げに至ったのでは」 ━━今回の訴訟において特に印象的だった点は? 「あまり情報がオープンにならず、水面下で様々な情報が錯綜して、誰が言っていることが真実で、この段階を自分たちはどう捉えたらいいのか、と悩んだ。そのため、記者の仲間とも相談しながらチームで協力して取材を進めた」 (ABEMA/倍速ニュース)
ABEMA TIMES編集部