四国の山中にヒマラヤ民謡?ネパール人労働者激増、12万人来日の背景は 川下りやホテル、空港、食肉処理まで…新たな裏方に【移民社会にっぽん】
四国・徳島の吉野川上流。日本有数のラフティング(川下り)の名所でアジアののどかな民謡が響いていた。ゴムボートを操縦してヒマラヤの民謡を披露するガイドの男性はネパール人だ。よく見れば、インド亜大陸の風貌をした船頭が川のあちこちにいて日本人客とボートをこいでいる。 コンビニやファストフード店など日本各地で近年、ネパール人の労働者らを目にする機会が増えていないだろうか。少子高齢化と人手不足で、日本が移民や外国人労働に依存する社会に近づいている。中でも目立ってきたネパール人の背景を追ってみた。(共同通信=高山裕康) ▽給与5倍、ネパール大地震の被災者も ♪レッサム・フィリリ、レッサム・フィリリ(絹が風にたなびく)―。 涼しい山あいで、ミトン・シュレスタさん(33)がネパールの民謡を歌っていた。ネパール人のシュレスタさんが歌っていたのは故郷ヒマラヤのガンジス川上流ではなく、徳島県の吉野川の深い山の中だ。急流は全国屈指のラフティングの名所となっているが、ここで操船ガイドをしているのがシュレスタさんだ。 「こいで、こいで」。上手な日本語でオールさばきを指導し、日本人観光客が歓声を上げていた。シュレスタさんは、埼玉や京都など日本の5地域でラフティングツアーを行うビックスマイル(京都府亀岡市)で2018年から働いている。母国でもラフティングガイドだが、ヒマラヤは毎年夏、モンスーンの雨期で川は増水する。この閑散期に日本に出稼ぎをするネパールガイドが増えている。
2015年のネパール大地震ではシュレスタさんの自宅も損壊したという。「再建のためのローンが残っている。日本なら給与は5倍になる」とシュレスタさん。ビックスマイル社の宇山昭彦社長によると、以前は夏と冬の季節が反対のニュージーランドからガイドを雇うこともあったが、次第にネパール人ガイドにシフトしていった。「ネパールは年長者を尊重する文化があって、仕事がしやすい。ガイドの技術も高い」と宇山社長。現在は従業員の6割ほどの約60人がネパール人という。ネパール人を雇うラフティングツアー会社は多く、吉野川のラフティングスポット沿いのあちこちでネパールの人々を見かけた。 厚生労働省によると、ネパール人労働者は2012年の約9千人から2022年の約12万人と13倍に急増している。ネパールの1人当たり国民総所得(GNI)は1230ドル(約18万円、2021年)で、日本の30分の1とまだまだ貧しい。 私は2015年から18年にかけてインドに駐在し、現地を取材した。その頃から、ネパールでは日本への留学を目指す若者がいた。