四国の山中にヒマラヤ民謡?ネパール人労働者激増、12万人来日の背景は 川下りやホテル、空港、食肉処理まで…新たな裏方に【移民社会にっぽん】
▽中間層の夢は日本留学 「日本ではごみの分別が必要です」「はい、先生」。2017年、カトマンズ郊外の日本語学校の授業で、約50人の若者が日本語で一斉に返事をした。ネパール人生徒のビマラ・ギリさん=当時(26)=は大地震で21歳の弟を失っている。「専門学校で観光ビジネスを学び、故郷の村でガイドをしたいです」と真っすぐな目で話していた。 インドは伝統的な身分制度カーストの影響を受け就労先に制限がある人が多いが、ネパールは比較的緩やかだ。英領インドの強い影響力の中、貧しい山間地のため、雇い兵部隊の「グルカ兵」や、インド各地の飲食店などに出稼ぎに行くことが一般的になったとされる。人口約3千万人のネパールは、中国とインドに挟まれた内陸国のため港がなく、輸出産業は不向きなのが実情だ。2015年の大地震では周辺国も含め約9千人が死亡し、復興のため海外出稼ぎの重要性は増した。 約300人が通う日本語学校の校長は「ネパールでは英語教育を受けた富裕層は欧米に留学し、貧困層は中東へ出稼ぎに行く」と指摘した。貧しい人々の行き先はアラブ首長国連邦(UAE)やカタールの建築現場だ。2022年のサッカー・ワールドカップ(W杯)カタール大会を機にネパール人ら外国人労働者の中東での厳しい労働環境が広く報じられた通り、重労働で亡くなる人もいるが、それでも母国より待遇はいい。
日本を目指すのは「150万円程度の準備金を用意できる中間層が中心」(校長)。日本側の規定で留学生には週28時間のアルバイトが認められているため、これくらいの資金があれば「学費や生活費を賄える」と考えているのだという。 ▽インド料理店を次々開店 一方、日本側にも事情がある。東アジアの経済成長を背景に日本語学校に通う中国人・韓国人留学生が減少し、専門学校も少子化で留学生の受け入れが進んでいる。少子高齢化でサービス業界を中心に人手不足が続く。ネパール人が働く東京都内のラーメン店の店長は「日本人バイトが集まらず、真面目でよく働くネパール人を雇っている」と話した。ネパールと日本、双方の思惑が一致した結果、ネパールで日本留学ブームが起きた。カトマンズには「日本での就労保証」などの看板を掲げる業者があちこちにあったほか、留学生を募集する日本人リクルーターの姿も見かけた。 ネパールの若者らはバイトをしながら日本語学校で学び、その後専門学校や大学に進学し、卒業後は日本語力を生かして日本企業への就職という夢を抱いた。