音の力で「認知症」に挑む!外出も自由…“管理しない介護”の実態
開発に携わった「ピクシーダストテクノロジーズ」長谷芳樹さんによると、この変調した音を聞くと脳内にガンマ波が発生し、記憶など、認知機能の改善が期待できるという。 千鶴さんからのプレゼントで「kikippa」を使い始めた秋山さん。千鶴さんは、「日常の記憶がもつようになった。些細な会話を覚えてくれている。以前は忘れていて不安そうにしていたが、笑うようになったし、以前のお母さんに戻った」と話す。 1878年創業。従業員数5680人、売上高約4267億円の「塩野義製薬」(本社:大阪市)。 1950年には鎮痛薬「セデス」を発売し、コロナ禍では、国産初の治療薬「ゾコーバ」を開発。政府がこれを緊急承認し、200万人分を買い上げた。 さらに、韓国や台湾で承認申請し、世界117カ国(低中所得国)に提供可能な態勢を整えた塩野義。150年近い歴史の中で地道に感染症の研究を続け、積極的に世界的な危機への対応を進めている。 その塩野義が、認知機能改善のため、なぜ薬ではなく家電だったのか。
会長兼社長 CEOの手代木功さんは、「医薬品には特許がある。特許が切れると、ジェネリック(後発医薬品)が出てくる」と話す。新薬と同じ有効成分で、価格の安いジェネリック医薬品が登場すると、オリジナルの売り上げは急落するのが実情だ。 「頑張って研究・開発して販売に至っても、それほど長い間、独占権がない。製薬会社に関していえば、今までの自分の得意領域にこだわっているとジリ貧になっていく。どんどん新しいことを始めていかないと」と手代木さん。「kikippa」の取り組みも、新規開拓の一つだという。
この取り組みを託されたのが、新規事業推進部の柳川達也さん(40)。だがそこには、理想だけでは済まされない、厳しい現実が待ち受けていた。「kikippa」は、発売から約3カ月で、売れたのは100台あまり。年間の目標を大きく下回っていた。 「追い込まれてはいるが、やるしかない」。 去年12月。柳川さんはオフィスビルの一角で、ある検証に立ち会っていた。「kikippa」の40ヘルツ周期の音で、認知機能をどれだけ向上させられるのか…そのエビデンスを取得するための検証だ。それにしてもなぜ、発売前にしっかりとしたエビデンスを取らなかったのか。 柳川さんは「顧客に届ける前に多くのエビデンスを取得するのが望ましいが、認知症の疾患に対する研究開発は、10~20年を要する。困っている顧客に一刻も早く届けたかった。“安全性”と“脳波の発生”という最低限のエビデンスを取得して、発表に踏み切った」と語る。