ラジオDJ・ナレーター秀島史香さんがたどり着いた生きやすさの選択〈連載 #私たちの自由な選択〉
デジタルネイティブ時代の「自分を大切にする生き方」を考えるインタビュー企画 #私たちの自由な選択 。連載全体で若者の「自由な選択」を応援しています。 今回は「先輩の選択」として、ラジオDJ、ナレーターとして幅広く活動する秀島史香さんの選択に迫ります。 〈写真〉ラジオDJ・ナレーター秀島史香さんがたどり着いた生きやすさの選択 ――10代の頃、どのように過ごされたのでしょうか。今のお仕事に行き着いたきっかけとなる出来事はありましたか。 秀島史香さん(以下、秀島さん):10代前半は、いろいろな事に対して憧れを蓄えた時期でした。音楽ひとつとっても感動して、他にも本、漫画、映画……あらゆるものに興味をそそられて、10代の感受性で自分の中に取り込んでいった。そんな時期だったと思いますね。 思春期特有の悩ましい気持ちも経験しましたが、私の場合は、うまく気持ちを表現できないもどかしさが強くて。 逆に、何かを表現してうまく気持ちを伝えられると嬉しくて、自分の気持ちが盛り上がるということも当時から感じていました。 私は楽器をやっていたのですが、自分自身が受け手として感動するのと同じように、芸術を表現して、それを誰かに届ける人って素敵な仕事だなぁと思っていました。ミュージシャンも俳優さんも、楽しく番組を進行している司会の人も、みんなかっこいいなと思いながら。先生だって、生徒をジョークで笑わせたりして、何かを表現することで人を明るくしていますよね。何かを伝えて相手がハッピーになってくれると、自分まで嬉しくなる。将来そんな仕事をしたいなとぼんやりと思い描き始めていたと思います。 今の10代を生きる方にも......「あんな人みたいになりたいな」というお手本の存在をできる限りいろいろな分野に持っておくと、選択の幅を広げられて、人生の豊かさにもつながると伝えたいですね。「大好きな人」や「好き」を幅広く持つというのは、さまざまな方向から誰かが支えてくれること。そう考えるようにしています。 ■デビュー1年目。「怒られても楽しかった」記憶 ――大学時代にDJオーディションに合格され、ラジオDJという進路を選ぶまで、どんなご経験をされましたか。 秀島さん:周りが就職活動を始めて、いよいよ進路を選ばなければならない、その時になってようやく「ラジオ、やっぱり大好きだな」と気づきました。 今は好きという気持ちがあれば、YouTubeやPodcastを始めよう!という選択肢もありますが、当時はオーディションに受かった人だけが声を届けられるというような時代でした。 大学在学中にDJオーディションに受かったのですが、それはスタートラインで、いきなり「3時間の番組をやってください」と言われても、当然ですが、最初からうまくできません。でも「この世界でやっていきたい!」という覚悟ができたのは、やはりラジオDJとして初めてレギュラー番組をいただいた頃だと思います。自分にとって「社会の中で身一つで働く」という強烈な体験で、凄く刺激的でした。 ――ラジオDJとして駆け出しの頃、もちろん大変だったと思いますが、その中で印象的なエピソードはありますか? 秀島さん:ラジオDJへの決意が固まったのは、先ほどお話しした、1年間のレギュラー番組を頂いた頃でした。大学3年生から4年生の21歳の時、大阪のFM802の深夜番組を担当していた時代です。本当に全然しゃべれなくて、いっぱい怒られていましたね。 怒られると、不甲斐なさを感じて、帰りの電車では涙がこぼれたりも。でも、怒られていること自体にせつなくなったり傷ついたりしている場合ではなく、むしろ「言われていることを、次の時にはできるようになっていたい」と、そのチャレンジ自体、今まで人生で経験したことのない、高揚感のようなものを感じました。 担当番組は1年で終わってしまい、その後も続けられる保証はなくて「断崖絶壁」に立たされた状態ではあったんですけれどね。 「オーディションで何度落ちていても、ひとつ自分には番組が持てている。だから、入口には立てているんだ!」という自覚が心の支えになっていました。そして「やっぱりラジオっていいものだな」とも思い直せて、とても濃いデビュー1年目でした。 ――たくさん怒られても、ラジオの世界が心から楽しかったんですね。 秀島さん:「ラジオって聴くのと話すのでは大違いだ!」とショックも受けましたが、飛び込んでみたら「思っていた以上に楽しいぞ!」というラジオの世界を知り、自分の「好き」がはっきりと見えた感覚でした。 その後、J-WAVEで「GROOVE LINE」をピストン西沢さんと担当した20代から30代。ラジオに対して「もっと自由でいいんだ」という見方もできるようになりましたが......一方で、ある程度DJとしてできることが増えて、自信もついてきたところで、また別の天井が開いて、わあ、上がまだまだあったんだ!...と、仕事の奥深さを痛感した時代でもありました。 そして、今、お話ししていて思うのは、一人だけで考えて、答えを出して、これが正しいと突き進んでしまう恐ろしさを知った頃でもあったなと。 番組を支えるスタッフさんに「それって真面目過ぎない?」と指摘をもらうなどして、また窓を開けてもらったような感じ。自分の風通しが良くなったと思いますね。 ――協働する番組スタッフさんの教えが、これまでの秀島さんを支えているのですね。 秀島さん:番組スタッフさんだけでなく、視聴者の方からのフィードバックも、良い方向に持っていきたいなぁと全て大切に受け止めています。それは、これまでも今もですね。いくつになってもこれでいいということはなく、修正したいことは日々出てきますよ。 ■自分のためのメモ、外出先を使って余裕と下準備。 秀島さんの毎日に迫る ――秀島さんのお仕事やご家庭でのセルフマネジメント術やスケジューリングの影の努力はきっと想像を超えたものがあるのだろうと思っています。 秀島さん:そうですねえ。大切にしているのは、ものごとにうまく優先順位をつけること。一日って24時間しかないのですから、私も永遠の課題だなと思います。 優先順位づけはある意味スキルで、「経験がものを言う」と思います。練習すれば上手になってくると信じながら、自分のスケジューリングやマネジメントをしていますね。 具体的に言うと、朝起きて、まず今日すべきことをメモにリストアップしてみます。今日はこの原稿を書いて、ゲラをチェックする。この人にメールをする。そうしてメモしておくと「あれもこれもどうしよう」と不安にならないんですよね。 全部が「作業」になってしまうのもせつないですから、なるべく自分がたのしくなるようにスケジュールを設定するようにしています。自分と約束すると、できない約束はしないようになりますよ。――自分と約束をすること。自分時間を大切にしていらっしゃることが日々のSNSからも伝わってきます。 秀島さん:「自分時間のプレゼント」という感じですかね。家から仕事にドアツードアで行くと、出かける直前まで家事をやってしまいたくなってしまうので……ここからは仕事だぞ、という時、外をうまく使います。 「全集中」できる場所は、行く先々で何か所か持っておきます。仕事も捗りますし、自分を喜ばすこともできる場所。たとえば、収録は時間に余裕を持って早めに家を出て、スタジオの近くのカフェに行って、収録や放送の前に最後の予習をしています。「バッファ」のような感じで、自分を整える時間をとるようにすれば、気持ちも和らぎますね。 ――秀島さんがご発信してきた中で「下ごしらえ」と呼んでいる下準備のテクニックに興味がありました。 秀島さん:下ごしらえ、下準備って、やり方は人それぞれですけれども、私は圧倒的に準備しておく派です。たとえ、そんなに準備がいらなかったという結果になっても、ラジオDJは気持ちが全部声に出てしまう職業ですし、自分の気持ちを穏やかにして臨むためでもあります。 下準備は、あらゆることで自分のテーマにもなっていますね。やっておきたいという気持ちだけでなくて、知りたいという私の気持ちも反映されています。たとえば、イベントの司会など大きなプロジェクトの前は、特に自分のための情報集めを意識しています。事前に資料を集めて、調べる。 そうですね……例えばポルトガル料理に詳しい方に会うとなったら、本を読んだり、ネットで調べたり。そうすることで日々の暮らしの中で「ポルトガル」という文字を見ればセンサーが働いて、自動的に反応します。 そこで「ポルトワインってポルトガルだっけ」「ポルトガルの主食ってなんだろう」と自分の中でいくつも疑問符を出します。がちがちのリサーチ!ではなく、好奇心を起点にふんわりとした下ごしらえをするんです。 ■理想をセルフチェックしながら、経験を積み重ねる。 10点満点の満足度13で生きるためには? ――秀島さんのこれまでと今、多くを知ることができました。ここまで積み重ねた今の生活と仕事のバランスや、その満足度はいかがでしょうか。 秀島さん:なんだかおばあちゃんみたいな引用になりますけど、今は「おかげさま」という気持ちで過ごしていますね。今ではいろんなところでいろんな仕事をしている人が自然と目に入って、毎日ありがたいなと思えます。 昔は自分のことだけで手いっぱいで「今日の番組をどううまくやろう?」ということばかり意識が向いていたんですけれどね。 今は、スタジオに向かう電車が普通に運行していること、駅の売店の店員さんが「いってらっしゃい!今日も暑いね!」など言って下さる挨拶も、沁みたりしますね。小さなことですけれど、仕事に行く時、そうした方に偶然出逢えたことを幸せと思える歳になりました。 生きてきた年数はただ歳をとっているだけではなくて、そのまま経験になりますよね。 ――私も目上の世代の方々に、日常的に励まされていると感じることがあります。いつもハッピーな秀島さんですが、プレッシャーを感じることもあるのでしょうか。 秀島さん:もちろん、ありますよ!「秀島さんで」と言ってもらった仕事は、その期待にできること全て取り組んで、お応えしたいから。 でも、プレッシャーが変に空回りしないように努めようと思ったのは、子どもを出産して、自分に時間が取れなくなって、ただ時間を注げばパフォーマンスという結果に落ちてくる訳ではないと見えてきた時。DJとして、やり方を考え直さないといけないと思いました。 先ほどもお話しした準備時間や優先順位のつけ方を、一度ではなくて、何度も見直すようになりました。「本当にこれでよかったのかな?」「これって、当日現場で本当に必要になることかな?」とか。 もともと、私は何かとのめりこんでやりすぎてしまう性格です。でも「ちょっと待って」と常々立ち返るようにしたら、俯瞰でも自分を見られるようになってきました。やりすぎちゃった結果、体調まで崩しちゃったら、意味がないですものね。 ――今、ご自身の心と体のバランスや満足感を自己採点すると、いかがですか。 秀島さん:今の満足度は、10点満点で13です!そう思うようにしているというのもありますし、自分で自分のメモリの設定を甘めにしているというのもポイントかなと思いますね。 そして……若い方にもお伝えできることは、私自身、今だから見えてきたことですが、自分にとっての限界をちょっとゆるめてみませんか、ということ。 いろいろ経験して大人になってみると「こうじゃなきゃダメ!」と思っていたことは、それだけが正解じゃなかったと思えるかもしれません。正解がこれしかないと思って、掴みに行ったけど、届かない、苦しいとなってしまっているのであれば「プランAも、BもCもDも見ようとしていたかな?」と理想をセルフチェックしてみるのはどうでしょう? ――10点満点の13と聞くと、私までハッピーになってしまいます。理想のセルフチェックという行動も目新しく、早速実践してみたいと思います。 秀島史香さん:年齢に合わせて、自分の理想をセルフチェックしながら歩んでいけるといいですね。もちろんハングリーに野心を持つことも大切だと思います。勝負時には目盛りの設定をちょっと高めに頑張ってみたり、逆に、例えば出産したばかりなら緩めてみたり......と常にこまめに調節することが、大事だと思うんです。 幸い私は今、満足度「10のうち13」と答えられていますが、昔は満足度「4か5くらい」と答えていたかもしれません。そこに辿り着くまで、いろいろ積み重ねて今があります。自分に対して「よくやってるね」って言ってあげることも、経験を積み重ねれば、きっとできるようになってくると思いますよ。 「今日もこれができなかった」と自分にダメ出しばかりしていて、新しいチャレンジ自体がしづらくなってしまったらもったいないですね。ダメ出しが癖になってしまうこともあるので、ちょっとずつ外していく。そこに「褒める」「励ます」という行動を取り入れていくようにしてみるんです。会社でコミュニケーションが上手くいった、家が片付いた、とりかかっていた調べものが分かるようになったとか、小さなことでも。 人から「いいね」「頑張っているね」と褒めてもらえるのを待つのではなくて「今日はこれできた!」と自分を励ましてみれば.......「明日もやるぞ!」という心の持ち方になるし、一生ものの自信につながることだって、あると思うんです。 最後にお伝えしたいことは、みなさん日々いろいろなシーンでプレッシャーを感じると思います。本当に、私たちはよく頑張っていると思いますよ。何はともあれ、ここぞという時に踏ん張るための気持ちと体力が大切。栄養と睡眠、そして一日の終わりに今日の自分を労わる時間をしっかりとってあげましょうね。 ■Profile|秀島史香さん ラジオDJ、ナレーター。1975年、神奈川県茅ヶ崎市出身。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。大学在学中にラジオDJデビュー。 現在、FMヨコハマ『SHONAN by the Sea』(毎週日曜朝6時~)、J-WAVE『LETTERS TO YOUR PRECIOUS』(毎週土曜朝7時50分~)などに出演中。 映画、テレビ、CM、アニメなどのナレーション、プラネタリウム、美術館音声ガイド、機内放送、EXILE『TiAmo』に参加するなど多岐にわたり活動している。ニッポン放送『文豪ROCK!~眠らせない読み聴かせ宮沢賢治編』で令和元年度(第74回)文化庁芸術祭ラジオ部門・放送個人賞受賞。著書に『いい空気を一瞬でつくる 誰とでも会話がはずむ42の法則』『なぜか聴きたくなる人の話し方』(共に朝日新聞出版)。 公式 インスタグラム:@hideshimafumika 公式X:@tsubuyakifumika
腰塚安菜