障害者「就労の場」が危機 国の報酬引き下げ県内にも影響 8事業所が閉鎖、83人退職
障害者が働きながら技術や知識を身に付ける就労事業所について、国は4月から収支の悪い事業所への報酬を引き下げた。事業所の経営改善を促す目的とは裏腹に、障害者と雇用契約を結ぶ「就労継続支援A型事業所」の閉鎖が全国的に相次いでいる。熊本県内の事業所も苦しい運営事情を抱え、「福祉的な役割が軽視されている。働こうと頑張る人の居場所がなくなってしまう」と危ぶむ。 県と熊本市によると、県内では報酬改定を前にした3月から9月までに8事業所が閉鎖され、少なくとも83人の利用者が退職を余儀なくされている。 NPO法人福ねこ舎が熊本市中央区で運営するカフェレストラン「みなみのかぜ」では、ギョーザの製造部門と合わせ、約20人の障害者らが働く。従来は1人で1日4時間ずつ働いていたが、4月から徐々に減らし、現在は1日2時間になった。国の報酬改定で、利用者の賃金支払いが難しくなったからだ。 A型事業所が国から受ける報酬は、利用者の就労状況や福祉支援の内容で決まる評価点に基づく。4月の改定で、事業収入が賃金支払い額を下回る〝赤字〟事業所への評価が厳しくなった。福ねこ舎の事業所は昨年度の105点から60点に急落し、年間報酬が1千万円以上減った。
報酬改定には、障害者を集めるだけで十分な支援をせず、報酬や助成金で利益を上げる悪質な事業者を排除する目的もあるとされるが、収益につながらない「支援」に力を入れる事業者も影響を受けた。 福ねこ舎の津留清美理事長(71)は「不正をしたわけでもないのに、なぜここまで厳しい評価なのか」と嘆く。新型コロナウイルス禍で客が減り、物価高で野菜などの原材料費も高騰している。黒字にするには利益を現在の3倍以上にする必要があるという。 A型事業所は、食品製造や企業からの業務受託などの「生産活動」による収益から利用者の賃金を支払うことが原則だが、厚生労働省の資料によると、2022年3月末時点で56・5%が賃金支払い額を下回る事業収入となっている。 津留理事長は「利用者の能力を伸ばしたり、一人一人違う障害に対応したりすることが福祉的労働のはずではないか。収益を優先すれば、障害が軽くて長時間働ける人だけを雇えばよいということになる」と疑問を投げかける。