「極上の乗り心地や室内の上質感はGクラスを上回る」 モータージャーナリストの渡辺慎太郎がランドローバー・ディフェンダー110ほか5台の注目輸入車に試乗!
輸入車には依然として明確な個性が宿っている!
モータージャーナリストの渡辺慎太郎さんがエンジン大試乗会で試乗した5台のガイ車がこれ! DS4エスプリ・ド・ヴォヤージュ、フェラーリ296GTS、ランドローバー・ディフェンダー110 V8、マクラーレン・アルトゥーラ、フォルクスワーゲンID.4ライトに乗った本音とは? 【写真22枚】モータージャーナリストの渡辺慎太郎さんがエンジン大試乗会で試乗した5台の注目輸入車の写真を見る ◆ブレのない個性は魅力的 大試乗会では、自分が担当するモデルを自分で決められない。数日前に編集部から送られてくるメールで初めて知ることになる。正直、「あれにも乗りたかったな」というのはあるけれど、「これには乗りたくなかった」と思ったことはいままで一度もない。魅力的なクルマばかりを集めた編集部の目利きのよさも多分にあるが、“白物家電化”などと揶揄されながらも、輸入車には依然として明確な個性が宿っているからだろう。個性丸出しでぶつかってこられると、こっちだって真剣にそれに応えなくてはならず、「いっちょやってやるか」と自然に元気の1つも出るものだ。また今回は、EPC会員の方々のタクシー・ライドも仰せつかった。みなさんクルマに対する見識が高く、クルマとの付き合い方についても一家言お持ちで、こちらのほうが大変勉強になった次第。クルマも人も、やっぱりブレない個性は魅力的なのである。 ◆DS4エスプリ・ド・ヴォヤージュ「眺めて満足、走って楽しい」 自動車の世界では、タッチ式液晶パネルがHMI(ヒューマン・マシン。インターフェース)の主流になりつつある。多くの機能をパネル内に集約して、機械式スイッチがほとんど見当たらないなんてクルマが急速に増殖している。そんな車内の風景にいつの間にか慣らされてしまった身としては、DS4に乗り込むとその煌びやかな各種スイッチに一瞬ハッとさせられる。もちろん、センターのディスプレイはタッチ式だが、“クル・ド・パリ”と呼ばれるピラミッド形のテキスチャーやクロームの装飾により、スイッチ類が必要以上に強烈な存在感を放っている。こうした演出を過剰と思う向きにはまったくお薦めできないけれど、こういうのが好みという方はきっと実際に走らせなくても眺めたりいじったりするだけでも満足できるに違いない。乗り味は “DS”ブランドを語っているとはいえ、やっぱりシトロエンの血統である。特にこのフワッとした乗り心地はシトロエン/DSでしか味わえない。だからといって、旋回中にばね上の動きが大きく旋回姿勢がなかなか決まらないなんてことはない。ここは望外にしっかりしていて、走っても楽しいクルマだった。 ◆フェラーリ296GTS「思想が透けて見える」 今回は奇しくもアルトゥーラとこの296GTSが割り当てられた。いずれもバンク角120度のV6とモーターを組み合わせたPHEVのミドシップスポーツカーである。駆動用バッテリーの容量もほぼ同じ。妥協なく突き詰めていくと、辿り着く先は一緒なのかと思ったりもする。いっぽうで、両極端に位置する部分もある。例えばステアリング。アルトゥーラのそれはスイッチ類が一切装着されていない。天晴れな潔さである。296GTSはウインカーまで組み込み、とにかくスイッチだらけである。どちらがいいとかではなく、ここにマクラーレンとフェラーリというスポーツカーメーカーの思想が透けて見える。回しやすさと運転への集中にこだわったマクラーレンに対し、F1のステアリングを想起させる機能性を追求したフェラーリ。GTSなのでせっかくだからルーフも開け放ってみた。ボディの剛性感に不足はまったくなく、おそらくこちらをデフォルトとし、クローズ状態では少し剛性過多になるようなボディ設計をしたのではないかと想像した。アセットフィオラノは、自分ごときにはやや手に余る戦闘力だった。 ◆ランドローバー・ディフェンダー110 V8「ハイブランドの登山靴」 老舗SUVメーカーであるランドローバーは現在、レンジローバー、ディスカバリー、そしてディフェンダーの3本のプロダクト・ラインを展開している。公式には、レンジローバーはラグジュアリーと洗練性、ディスカバリーはレジャーと多用途性、ディフェンダーはデュアルパーパスと頑強性となっているけれど、靴に例えるとレンジローバーは革靴、ディスカバリーはサイドゴアブーツ、ディフェンダーは登山靴、みたいな感じかもしれない。日本でもようやくディーゼル・エンジンが市民権を得てきたようで、ディフェンダーも90では68%、110では78%(2024年モデル販売構成比)をディーゼルが占めているという。ここであえてのガソリンV8の追加導入にはちょっと驚いた。ただ、メルセデスの登山靴であるGクラスはV8をラインナップしており、ヤツと戦うにはV8も必要という判断なのかもしれない。V8を搭載したことで、ディフェンダーはこれまでのカジュアルな雰囲気に、重厚感や高級感がトッピングされた。エアサスがもたらす極上の乗り心地や室内の上質感はGを上回る。ハイブランドの登山靴である。 ◆マクラーレン・アルトゥーラ「ハンドリングは秀逸」 マクラーレンのどのプロダクトに試乗してもいつも最初に感心するのはその乗り心地である。自分の(たいしてあてにならない)記憶に刻まれているミドシップのスーパースポーツカーの乗り心地とはおよそかけ離れたところにあって、下手なセダンよりもずっと乗り心地がいい。この快適性を司るプロアクティブ・ダンピング・コントロールのシステムだけ、あのメーカーやそのメーカーにいっそ売ったらいいのにと思うほどだ。パワートレインはV6とモーターを組み合わせたPHEVで、モーターのみを駆動させるEV走行も可能。その最大航続距離は約31kmで控え目となっていることからも、メルセデスAMGのEパフォーマンスのように環境問題に対する社会的責任と、スポーツカーメーカーとしての期待に応える責任を共に果たそうとしているように窺える。低速域でモーターを上手く使う手法は最近では珍しくなくなってきたが、振動の抑制には最適なバンク角120度のV6のスムーズさとのマッチングはお見事。そしてあくまでも自然で無駄な動きが一切排除されたハンドリングは相変わらず秀逸だった。 ◆フォルクスワーゲンID.4ライト「ステアリングの手応えはとてもスッキリ」 ID.4はBEV専用のプラットフォームを使ったVWのピュアEVではあるけれど、同時にVWとしては極めて稀な後輪駆動モデルでもある。「VWだけにビートルと同じRRの駆動レイアウトか」とすっかり思い込んでいたものの、よくよく調べてみたら駆動用モーターはリア・アクスルよりも前方にあって「これはRRというよりもミドシップではあるまいか」と気が付いたのはお恥ずかしながらごく最近のことである。前輪に駆動力がかかっていない分、ステアリングの手応えはとてもスッキリしていて、この点は他のVWと大きく異なるID.4ならではの特徴と言える。また、バッテリーとモーターをホイールベース内に収めることにより生まれた前後重量の配分のよさも、ID.4の旋回性能にプラスの効果をもたらしている。航続可能距離は最新モデルで延長が図られたそうで、ライトは435km、プロは618kmにそれぞれ伸びている。バッテリーとモーターのハードウェアに変更はなくソフトウェアの変更で実現したらしい。クルマの世界では今後ますます、ソフトウェアの重要性と依存度が高まっていくのだろう。 文=渡辺慎太郎 (ENGINE2024年4月号)
ENGINE編集部
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