太古の森を抜け、山頂から大パノラマを!「白神山地」ブナ原生林で感動体験
エゾハルゼミとヤマアカガエル、アズマヒキガエルの声をBGMに、踏み心地のよいフカフカの腐葉土の道を進む。白神山地にはブナのほか、たくさんの木、植物が生育しているから、それらの葉が地面に落ち、腐葉土という栄養豊かな土壌となるのだ。ふと見ると、足もとにはシダやコケが広がり、ギンリョウソウもニョキニョキ生えていた。そのほかユキザサ、イワカガミ、キノコなども見られ、小さな植物の観察も楽しめる。やがて、地面にカモシカの足跡を発見! さらにその先で見つけたのは……。
なんと、ツキノワグマの”おとしもの“! 消化されなかったらしい笹の繊維もバッチリ残っている。 「ホヤホヤではないですが、わりと新鮮ですね」 見ると、登山道に掲げられた木製の案内板がズタズタに壊されている。ツキノワグマの仕業だ。われわれの存在をクマに知らせて鉢合わせを避けるため、かけ声を絶やさず山頂を目指す。
ブナの森を抜けて尾根に出ると、白神山地の大パノラマが見えた。勢いのある緑が、モリモリと盛り上がっている。山頂付近は森林限界を越えるため、背の低い木々が茂る。標高1000m付近に群生するハイマツ帯は、ここ白神山地が本州で最も低い場所にあるのだとか。山頂からは世界自然遺産の核心地域や、青森県の最高峰、岩木山を望める。人工物がまったく視界に入らない、この地域の圧倒的な自然に言葉も出ない。
下山時は新道をたどり、クマへのかけ声を絶やさぬまま緩やかな尾根伝いに下る。アオバトやウグイスの鳴き声が響き渡り、木々の枝から枝へ飛び回る2羽のエナガに癒される。同時に、ブナの巨木にクマの爪痕が残されているのも見え、ゾッとさせられるのだった。 白神山地は大自然のエネルギーに満ちあふれているワンダーランドだ。澄んだ空気を胸一杯に吸い込み、涼やかな風に頬をなでられつつ、森で生命の息吹を感じる。入山マナーやルールを守って、ぜひ、そんな貴重な経験をしてほしい。 Text:鈴木博美