“王”との「強制結婚」から逃れて来日したナイジェリア人女性も「難民不認定」に…弁護士が指摘する申請手続き・訴訟の“不備”
11月21日、入管による難民不認定処分の取り消しを求めて訴訟を行っているナイジェリア人女性と代理人弁護士が、訴訟の状況を知らせる記者会見を開いた。
「王」による「強制結婚」から逃れるため来日
本訴訟の原告は、ナイジェリア出身のアデコヤ・シンビアット・テミトープさん。代理人は吉田幸一郎弁護士。 アデコヤさんが住んでいた地域(オグン州)には「王」と呼ばれる権力者(伝統的首長)がおり、女性を「第一妃」や「第二妃」などと指名して強制的に結婚(重婚)している。現地では強制的な重婚は「地域の慣習」とされており、また「王」がどのような犯罪を行っても、現地の警察・検察は逮捕や起訴を行わない。 2014年5月、「王」の部下がアデコヤさんの自宅を訪れ、王の妻となること、また妻になるための手術を受けるように命じたという。アデコヤさんが拒否したところ、監禁されて暴行を受ける。また、同居していた伯父と叔母も暴行を受け、叔母は死亡し、伯父も重傷を負った後に行方不明になっているとのこと。 現地を離れたアデコヤさんはナイジェリアの首都・アブジャで支援者を見付け、その助力により、2014年8月、出国・来日。当初の在留資格は「短期滞在」、その後は「特定活動」に在留資格を更新する。 同年9月、強制結婚やそれを拒否した場合に暴行を受けることは「迫害」に当たるとして難民認定申請を行ったが、2015年6月に不認定処分がなされ、8月に処分が通知される。同日に異議申し立てを行うが、2020年12月に棄却され、翌年2月に通知。 本訴訟は2015年6月の不認定処分の取り消しおよび2020年12月の異議申し立て棄却の取り消しを請求して、2021年8月、東京地裁に提起された。 2024年2月、請求を棄却する判決が言い渡されたため、原告側は高裁に控訴。現在は控訴審が進行中である。
難民申請手続き・難民訴訟には説明や通訳に不備がある
会見で吉田弁護士が指摘したのは、日本における難民申請手続きや不認定処分取り消し請求訴訟(以下「難民訴訟」)は、申請者たちの置かれている状況を十分に考慮したものになっていない、という問題だ。 まず、難民申請においては、申請者に「報告すべき重要な事実とは何か」が適切に説明されないまま手続きが開始する場合が、多々あるという。 アデコヤさんのケースでは、暴行を受けた後に現地の警察に被害届を提出していたが、申請手続きの際にはその事実を伝えなかった。届け出の後にも警察は「王」からアデコヤさんを保護するなどの対応を行わなかったことから、「重要な事実ではない」と本人が判断したためだ。 第一審においてもアデコヤさんは被害届について語らず、提出の事実が明らかになったのは控訴審になってからだ。したがって、国(被告)側は「被害届を提出したのなら申請手続きや第一審で報告していたはずだ」という旨の反論を行っている。 吉田弁護士は、「そもそも難民申請者は手続きの時点で恐怖や不安から合理的な判断ができない場合が多い」と指摘し、後日になってから新しい事実を報告することは不自然ではない、と語った。 さらに、申請手続きは通訳者を介して行われるが、その能力が不十分である場合も散見されるという。たとえば英語を通訳する場合にも、ナイジェリアを含む各国には独特の「スラング」や単語の使用方法の違いなどがあるため、通訳者が入管に申請者の意図を誤って伝えることがある。 「申請者は友人のことを『ブラザー』と表現していたのに、通訳者が『兄弟』と誤訳して伝えた事例もあった」(吉田弁護士) アデコヤさんのケースでも、自身が暴行により全身にケガを負った事実や、伯父・叔母が暴行を受けた事実について、通訳の不備が原因で申請手続きの際に適切に伝えることができていなかったという。訴訟においても、この問題が争点の一つとなっている。