“王”との「強制結婚」から逃れて来日したナイジェリア人女性も「難民不認定」に…弁護士が指摘する申請手続き・訴訟の“不備”
難民訴訟は弁護士にとって多大な負担
吉田弁護士は、難民訴訟において国側は原告にとって不利な証拠は細かく調査する一方で、原告にとって有利な証拠の調査を拒む傾向にある、との問題も指摘した。 アデコヤさんのケースでは、上述の「被害届」が本物であるかどうかは、外務省を通じて簡単に確認することが可能だという。しかし、本物であることが確認された場合にはアデコヤさんにとって有利になるために国側は調査を拒んでいる、と吉田弁護士は言う。 「なぜ、調査すればわかることを、調査しないのか。残念に思う。 『勝ち負け』を争うのではなく、アデコヤさんの『難民該当性』を適切に判断するために、原告側と国側とで協力しながら事実を明らかにしていくことが、訴訟の目的であるはずだ」(吉田弁護士) さらに、日本の難民訴訟においては、原告側による現地証拠の調査や証人の呼び出しにかかる費用、また通訳や翻訳(外国語書類には日本語の翻訳文を添付することが求められる)に関する費用などは、弁護士が「持ち出し」で行っている場合が大半だ。 日弁連から援助はなされるが十分ではなく、時間的・金銭的な負担が非常に大きいため、難民訴訟を引き受ける弁護士はごく少数だ。そのため、弁護士を立てて難民訴訟を提起すること自体ができない申請者が、多数存在するという。 「弁護士と出会えなかったことが原因で訴訟を提起できなった申請者のなかには、他の国であれば申請の時点で難民認定がなされていたであろう人が、多数含まれている。 国は、難民であるはずの人にまで不認定処分を行っている事態について、責任を負うべき。せめて、難民訴訟で原告側が勝訴した場合には、国側が弁護士費用を支払うべきだ」(吉田弁護士)
ホームレスになる可能性も…「子どもと一緒に暮らしたい」
難民条約に基づき、難民認定申請者には「保護費」(生活費・住居費など)が国から支払われる。しかしその金額は必ずしも十分でないうえ、難民訴訟の第一審で原告が敗訴した場合には支払いが停止されるのが一般的だ。 吉田弁護士が理由を問い合わせたところ、国側は「財源には限りがあるため」と述べたとのこと。さらに、第一審で原告が勝訴した後に国側が控訴した際にも、「控訴審で結果が逆転する可能性がある」ことを理由に、支払いが停止されたケースもあるという。 アデコヤさんも、現在は保護費の支払いを停止されている。さらに、知的障害を患っている長男を含む子ども2人との3人暮らし。「状況は最悪だ」とアデコヤさんは語る。 「家賃も支払えなくなり、現在は滞納しているが、いつ大家から追い出されてホームレスになるかわからない」(アデコヤさん) 児童相談所は子どもらを保護するために、アデコヤさんから引き取ることを打診している。 「しかし、子どもたちだけが、私にとって最後の家族。必ず、一緒に暮らしたい」(アデコヤさん) 現地には「王」の部下が多数いるため、もしアデコヤさんがナイジェリアに送還された場合には、所在を突き止められる可能性は高い。また、知的障害を持つ長男が現地で生きていくことは困難であるという。 一方、訴訟において国側は、「強制結婚は『迫害』に当たらない」などと主張し、アデコヤさんの難民該当性を否定している。
弁護士JP編集部