河合優実「彼女の人生を、自分が生き直す」。コロナ禍で過酷な運命に翻弄された女性を演じた思い
“暴力の連鎖”は断ち切れる、という希望を感じてほしい
トライアンドエラーの撮影期間中、入江監督が「奇跡的な瞬間が撮れた」と手ごたえを口にしたシーンがある。母の元から離れてシェルターマンションで暮らし始めた杏が、住人から幼い子どもの世話を押し付けられる場面だ。 「杏にとって、逮捕された後に誰かから手を差し伸べられたり守られたり、支えられたりすることは経験してきましたが、子どもと生活を送るなかで“自分も誰かを守れる”と初めて充実感を覚えたのではないでしょうか。 同時に、彼女が親から受けていた暴力を繰り返さないことで“暴力の連鎖”を断ち切った瞬間でもあり、希望も感じられるシーンでもあったように思います。たとえどういう境遇に生まれたとしても、人が人に優しくできることはあるはずだと。入江監督の言葉もありましたが、私自身もあのシーンで新たなフェーズに入った感覚がありました」 ちなみに本作はほぼ順撮り(脚本の順番通りに撮影すること。転じて、時系列順に撮影していく意味も)でスケジューリングされており、河合がリアルタイムで抱く感覚を、杏の思考や感覚にその都度反映していく現場だったことがうかがえる。 ゴールからの逆算で最適解を提示し、キャリアを重ねてきたクレバーな俳優・河合優実。彼女は激動の撮影期間に想いを馳せ「必死だった」とつぶやいた。計算できない領域への到達――。『あんのこと』で体得した「本能で動く」演技経験が、彼女を次なる高みへと導くことだろう。 ---------- 『あんのこと』は6月7日(金)より新宿武蔵野館、丸の内TOEI、池袋シネマ・ロサほか全国公開 配給:キノフィルムズ (C)2023『あんのこと』製作委員会 ----------
SYO(映画ライター)