河合優実「彼女の人生を、自分が生き直す」。コロナ禍で過酷な運命に翻弄された女性を演じた思い
俳優デビューから約5年、河合優実の躍進が止まらない。『佐々木、イン、マイマイン』『サマーフィルムにのって』『由宇子の天秤』『ちょっと思い出しただけ』と映画好きの琴線に触れる快作に立て続けに出演し、各映画賞に輝いた『PLAN 75』『ある男』でも存在感を発揮。2024年にはバズを生み出したTVドラマ「不適切にもほどがある!」で知名度がさらに拡大し、主演ドラマ「RoOT / ルート」を挟んで『チェンソーマン』の藤本タツキによる漫画をアニメ映画化した『ルックバック』(6月28日公開)、先日行われた第77回カンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞した『ナミビアの砂漠』(夏公開)が控える。 そしてまた本作も、彼女の代表作の1本となるだろう。6月7日(金)公開の主演映画『あんのこと』だ。 【写真】売春を強要され、薬物依存に陥ってしまった女性を演じた河合優実
「彼女の人生を、自分が生き直すと決意した」
本作は、コロナ禍に起きた実際の事件をもとにした壮絶な物語だ。幼少期より母親に虐待され、成長してからは売春を強要され、その過程で薬物依存に陥ってしまった杏(河合優実)。人情派の刑事・多々羅(佐藤二朗)とその友人で週刊誌記者の桐野(稲垣吾郎)と出会い、人生をやり直そうともがいていく――。 河合が冒頭から体当たりの熱演を披露している本作。実は、企画者の國實瑞惠が入江悠監督と開発段階から主演として河合の名を挙げていたという。 「脚本を初めて読ませていただいた際に、この役とこの作品が自分のところに来たことに対して“大丈夫だよ”と言いたい気持ちになりました。彼女の人生を、自分が生き直すと決意しました」 しかしその感覚は、「自分にしか演じられない」という自信とはまた別物。入江監督と共に関係者や舞台となる介護施設などに取材を重ね、事前に衣装とメイクを施したうえでカメラテストを行うなど入念に準備は行ったものの、実在の人物をモデルにした作品に出演する“不安”や“怖さ”は心に付きまとい続けた。いまもまだ、その是非は自身の中で揺らぎ続けていると打ち明けた河合。そんななかで、一つの支えになったのは自身も救われてきた映画の力だった。 「劇中には福祉事務局員が『義務教育を放棄したのは自己責任』と告げたり、介護施設で低賃金で働かされたりと、目を疑うような場面がいくつも出てきます。ですが、こうやって描かれるということは実際にそういったケースがあるのだと受け止めました。 そして当たり前ですが、この社会に生きる一人ひとりに人生があるということを改めて考えました。映画はニュースや報道とは違って、その人の人生を疑似/追体験できるメディアです。本作が、観て下さった方それぞれの中で“体験”として残ることができれば、作った意味があると思えます」