【社説】天安門事件35年 人権抑圧の拡大を憂える
国民の不満を力で抑え込んでも問題は解決しない。抑圧された人たちの怒りはさらに高まり、体制へと向かうだろう。中国政府は国民に向き合い、民主化拡大と人権状況の改善を進めるべきだ。 民主化を求める学生が中国共産党・政府に武力で弾圧され、多くの犠牲者が出た1989年の天安門事件から35年を迎えた。 中国はその後の改革・開放政策で著しい経済成長を遂げた。胡錦濤政権の2013年までは、民主化を期待させる動きも一部にあった。 後任の習近平体制になると「社会の安定」を最優先する強権的統治で、民主化や人権を巡る状況はむしろ後退しているように見える。 新疆ウイグル自治区ではこの10年、イスラム教徒を収容所に送り込んで暴行したり、不妊手術を強制したりしたとされる問題が起きている。 チベット自治区でも少数民族への抑圧が続く。内モンゴル自治区の学校はモンゴル語教育が大幅に縮小され、標準中国語の使用を徹底させるようになった。 政府による抑圧の対象は民主活動家や人権派、少数民族ばかりではない。 新型コロナウイルスへの対応は、一般国民の人権を軽視する姿勢を世界に強く印象づけた。感染拡大を恐れた政府は、上海などの大都市で国民の行動を厳しく制限するロックダウン(都市封鎖)を長期間継続した。 白い防護服に身を包んだ集団が感染者のいる家に押しかけ、有無を言わさず大量の消毒液をまき散らす映像は海外の人たちを驚かせた。 中国で暮らす外国人も不安を募らせている。国家安全法や反スパイ法が施行され、邦人が具体的な理由を示されないまま、長期間にわたって当局に身柄を拘束される事案が多発している。 一国二制度の下で比較的自由な社会を維持してきた香港でも、国家安全の維持を理由に民主活動家への弾圧が激しくなっている。 この35年間、中国政府は天安門事件の真相究明を避けてきた。事件を「政治的風波」と位置付け「既に解決済み」と繰り返す。事件の風化を狙っているのだろう。 こうした政府の思惑にもかかわらず、自由を求める国民が少なからず存在する事実を軽視してはならない。 厳格なゼロコロナ政策の下で、政府への不満を強めた国民が白い紙を一斉に掲げて抗議の意思を示す「白紙運動」は、怒りと不屈の精神の表明である。 人類の普遍的価値である人権について、国際社会が改善を促しても内政干渉には当たらない。日本をはじめ各国政府は中国に改善を強く求めていくべきだ。 天安門事件を忘れてはならない。言論や報道の自由がさらに制約されるようになっても、私たちメディアはひるまずに報道を続ける。
西日本新聞