「マティス 自由なフォルム」(国立新美術館)レポート。切り紙絵にロザリオ礼拝堂、マティス芸術の到達点を堪能する
バーンズ財団の《ダンス》
61歳を迎える1930年、マティスは実業家のアルバート・C・バーンズに壁画《ダンス》の制作を依頼された。本展ではこの依頼に伴う一連の《ダンス》の習作が展示され、また壁画をやや縮小したサイズでプロジェクターで壁に投影している。 この《ダンス》は切り紙絵にフォーカスする本展において、重要な位置を占めると米田は語る。 「《ダンス》は巨大なコンポジションだったので、構図を調整するにあたり、描き直しが非常に大変でした。そこでマティスは切り紙絵を使い始めます。切り紙絵によって微妙な構図を素早く行うことができるようになりました」
切り紙絵という到達点
続く「第4章 自由なフォルム」がいよいよ本展の白眉だ。1940年代、70代を迎えたマティスがたどり着いた新たな技法、それが「切り紙絵」だった。 41年に腸の手術を受け、その後体調が悪化。さらに43年、ニースが空爆の危機にあったことから近郊の街ヴァンスへと疎開したマティス。切り紙絵の手法が生み出されたのは、こうした体調をはじめとする様々な制約のなかでだった。しかし結果的に、切り紙絵は、それまでマティスが制作にあたり長年頭を悩ませていた「デッサンと色彩び永遠の葛藤」に決着をつける、自身の芸術の「到達点」となった。 本展では切り紙絵による重要作『ジャズ』『ヴェルヴ』をはじめ、大型の《クレオールの踊り子》(1950)、そして傑作《ブルー・ヌードIV》(1952)が展示される。
日本初公開の大作《花と果実》
今回の見どころのひとつは、本展のためにフランスでの修復を経て日本初公開される大作《花と果実》(1952~53)だ。 本作は、アメリカ人コレクターから中庭を飾る陶板絵による大型壁面装飾の依頼を受けたマティスが、その構想を練るなかで制作した切り紙絵によるマケットのひとつ。5枚のキャンバスを使った縦4.1m、横8.7mに及ぶ大作で、花と果実の形態が様々な色で反復されている。こうした形態の変容や交換、配置の変更などにあたって、容易に手繰ることができる切り紙絵の手法は非常に効果的だった。