利益と社会・環境的影響を両立する「インパクト」が存在感を増す 行政が期待する理由は
内閣官房副長官である村井英樹氏は「短期の経済的リターンにより過ぎた成長モデルでは持続可能性を欠く。事業性を伴わない社会貢献活動のみでは広がりを欠いてしまう。両者の両立こそが我が国の持続的な成長を形づくっていく」と語る。 また「相対的貧困や地域課題など社会課題が多様化している現代では、行政だけで課題解決はできない。NPOやインパクトスタートアップと協力していく仕組みが重要」と述べ、未利用産地を使うことで二酸化炭素吸収量を増やし、同時に動物福祉に配慮する牧場や、空き缶などのアルミを使って水素を製造する技術を開発した北陸の機械メーカーの例を紹介した。
■シェア自転車が福岡市の社会的インパクトに
「インパクトスタートアップと地方自治体の官民連携」と題されたセッションには、福岡市長の高島宗一郎氏やインパクトスタートアップ協会代表の米良はるか氏が登場。前述のTBMやヘラルボニーも交え、近年注目が集まるインパクトスタートアップについて意見を交わした。 福岡市は2012年に「スタートアップ都市宣言」をしてからスタートアップ支援に積極的に取り組んできた。これが社会課題の解決に繋がってきたと高島氏は語る。 米良氏は「社会課題とビジネス・利益の両立にはエコシステムが必要だが、最初の一歩を踏み出すのは大変なはず」と、福岡市の活動を評価した。 また高島氏は福岡市でシェア自転車事業を運営するチャリチャリ株式会社の事例を紹介。シェア自転車の活用が福岡市の放置自転車問題の解決というインパクトに繋がっていると語った。 放置自転車を撤去するために投入される税金が少なくなったことも行政としてのメリットだ。また米良氏は「社会課題が顕在化している日本とインパクトスタートアップの相性はいい」と述べ、インパクトスタートアップは行政だけでなく、社会課題解決にチャンスを見出そうとしている大企業との連携も重要だと主張した。
行政や企業などの社会課題解決を支援するケイスリー株式会社の幸地正樹社長は「世界のインパクト投資市場は2018年の約35兆円から、2022年には約180兆円に拡大している。国内でもインパクト投資残高は2018年の3440億円から2023年には11兆5414億円に急拡大した。 日本においてインパクト投資の市場はこれからまだまだ成長していくとみられる」と語る。 今後の普及の鍵は認知度向上や経営トップの理解だろう。インパクトは日本経済の起爆剤となるか。今後の動向に注目だ。