向井理の“狂気”は他人事にならない 『ライオンの隠れ家』祥吾をただの悪役にしない表現力
いよいよクライマックスへと向かう『ライオンの隠れ家』(TBS系)。洸人(柳楽優弥)と美路人(坂東龍汰)は愁人(佐藤大空)にお別れも言えないまま離れることに。愛生(尾野真千子)と愁人は、訳あって祥吾(向井理)の元へ向かったのだ。はじめこそ「離婚したい」と申し出た祥吾だったが、そこには隠れた狂気が……。 【写真】祥吾とは正反対過ぎる! パリピな諸葛亮孔明を演じていた向井理 大きな事件と複雑に絡み合う歪んだ愛を前に成す術のない洸人たちの姿に、私たち視聴者の胸にも苦しさが込み上げる。そんな『ライオンの隠れ家』で、強いインパクトを残すのが向井理の怪演だろう。 これまでも数々の映画、ドラマで印象的な芝居を見せてきた向井。NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』や『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)、『着飾る恋には理由があって』(TBS系)など、数々の作品で視聴者の心を揺さぶってきた。 NHK大河ドラマ『麒麟がくる』では足利義輝役を演じ、障子で囲まれた末、そのまま障子越しに刺殺されるという衝撃的なシーンで話題となった。さらに人気コミックを原作とした同名ドラマ『パリピ孔明』(フジテレビ系)では、実写化の難易度が高いとされた諸葛亮孔明役に抜擢される。それまで、高身長と美しさが映えるような“理想の男性象”を思わせる役が多かった中、孔明役ではインパクトのある三国時代の出で立ちで登場し、思いもよらぬユニークな手法で英子(上白石萌歌)を歌手へと導いた。思わずクスッと笑ってしまうようなキャラクターでさえ、向井が演じると不思議な魅力を感じ、惹き込まれずにはいられない。 『ライオンの隠れ家』での向井は、まさに主人公たちとは敵対するような立場の役を演じている。お互いを思いやり、豊かな心を育みながら“プライド”を築く洸人たちとは対照的に、暴力で家族を支配し、それがある種の愛情であるという歪んだ価値観を持つのが祥吾なのだ。力のない表情、自分の感情と支配欲をコントロールしきれない苦しみが溢れる姿は、向井の芝居だからこそその惨めさ、恐ろしさが際立つ。 実は、向井は過去にもドラマ『きみが心に棲みついた』(TBS系)星名漣役で、父親から愛されず暴力を受けていた生い立ちのせいでヒロイン・今日子(吉岡里帆)に歪んだ接し方をしてしまう役を演じていた。 『きみが心に棲みついた』では恋愛における執着や、人間性の歪みを見事に表現した向井だが、『ライオンの隠れ家』ではその矛先が“家族”へと変化している。“家族”を持てなかった自分がやっと手に入れた「血の繋がった息子」を執着の対象として目を向けていく姿には、本当にゾッとしてしまう。 だが、この愛に飢えた祥吾の姿というのは、第9話で洸人が「誰でもそうなる危うさがあるのかなと思って。僕も弟のためって言いながら、ずっと自分が生きやすいように自由を奪ってきた気がして」と不安を訴えたように、他人事ではないと感じてしまう部分も大いにある。向井の類稀ない表現力によって愛情と束縛の境界がリアルに体現されるからこそ、祥吾は今や多くの視聴者にとって嫌悪だけで片付けられない存在になっているのだ。 ライオンを救い出すことができなかった洸人。そしていよいよ感情のコントロールを失った祥吾が、この先何をしでかしてしまうのか。事件との関係性、家族の絆と見どころたっぷりの『ライオンの隠れ家』を、最後までしっかりと見守りたい。
Nana Numoto