くすぶるホルムズ海峡封鎖リスク、イランはイスラエルの報復に備え着々…日本に必要なのは石油備蓄放出の準備
■ イランの石油関連施設をイスラエルが攻撃する可能性はゼロではない 原油生産量は日量1350万バレルと過去最高水準を更新している。 米国の今年の原油輸出量(平均)は日量400万バレルを超えており、南部テキサス州のコーパスクリスティは今や世界3位の原油積み出し港となっている*1 。 *1:Corpus Christi Is Now The World’s Third-Largest Oil Export Port(10月21日付、OILPRICE) 世界の原油市場で過剰感が高まる中、原油価格を引き続き下支えしているのは中東地域の地政学リスクだ。イスラエルがイランの石油関連施設を攻撃する可能性がゼロになったわけではないため、一方的な動きにはなりにくい。 イランの攻撃から3週間が経過したが、イスラエルはいまだに報復を行っていない。 ネタニヤフ首相の私邸がドローン攻撃を受けたため、イスラエル軍はレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラへの攻撃に注力している感があるが、「これが一段落すれば、次はイランなのではないか」との不安が頭をよぎる。 イスラエルのガラント国防相は22日「イランへの攻撃は数カ月間続く」と述べている。 これに対し、イラン側はイスラエルによる報復攻撃への準備を着々と進めている。
■ ホルムズ海峡封鎖はこうして起きる イラン産原油の積み出しはペルシャ湾に浮かぶカーグ島で実施されてきたが、積み出しの中心をオマーン湾に面するジャスク港に移す作業を本格化させている。同港の積み出し能力は日量100万バレル、イランの輸出量(同170万バレル)の半分以上をカバーすることができる。同港から9月中旬に約200万バレルの原油の積み出しを実施している*2 。 *2:Iran Readies New Oil Outlet To Bypass the Strait of Hormuz(10月18日付、OILPRICE) このことは、イランが原油供給のチョークポイントであるホルムズ海峡を回避できる輸送手段を確保したことを意味する。カーグ島が攻撃されたとしても、イランの原油輸出へのダメージは限定的なものになるだろう。 むしろ、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)への打撃の方が大きい可能性がある。カーグ島が攻撃されれば、ジャスク港の活用で「後顧の憂い」がなくなったイランはホルムズ海峡の封鎖に踏み切るかもしれないからだ。そうなれば、ペルシャ湾で船舶の航行に混乱が生じ、サウジ、UAE両国からの原油輸出が一時的にストップする事態になりかねない。 日本の原油輸入(今年8月)に占めるサウジアラビアのシェアは39%、UAEは45%だ。両国の原油は100%、ホルムズ海峡を通過している。 「備えあれば憂いなし」。日本政府は国家石油備蓄の放出に向けた準備を直ちに進めるべきではないだろうか。 藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー 1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。
藤 和彦