神山監督『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』で見せるアニメーターの力 津田健次郎も「画面に釘付け」
一方の神山監督は、ジョセフからのオファーについて「『ロード・オブ・ザ・リング』も大好きだったし、それをこういった規模の映画で監督ができるということで、内心は踊り出したいくらいうれしかった」と正直な思いを語りつつ「でもこれをアニメで監督して、作り上げるのがどれだけ大変かというのはわかっていた。顔には喜びを出さず、難しいね、どうしようかと言った記憶があります」と続けた。
その難しいポイントのひとつが、ローハンという騎馬民族を描くにあたって、何千頭という馬が登場すること。「日本では黒澤明監督が『影武者』の時にやっているんですけど、それをアニメでやるのは正直、不可能なのではないかと。すてきな話なんだけど、無理なものを受けるのはどうなのか、というアンビバレントな思いがあった」という神山監督は「でも、これは日本のアニメを作る人間の代表として受けるべき仕事だと思った。モーションキャプチャや3DCGなどの、僕がここまで培ってきたデジタルの技術などを全部つかえば……最終的には手描きにするわけですが、そういう技術を使えばできるのではないかと。3年間で3回映画を作ったような気持ちでしたが、すごく楽しいチャレンジでした」と振り返った。
この日は、ヘラと、彼女の幼なじみで、王国に突如反旗をひるがえすウルフが対峙(たいじ)する、およそ3分にわたる場面を特別上映。本作のストーリーや映像美の一端が垣間見えるようなその映像に津田も「こんなに見せちゃうんですか。しかもこのシーンを」と驚き。「日本のアニメの特長は手描きのアニメーターたちのすごさだと思う」という神山監督は「われわれはそこを求められていると思うので、アニメーターたちが一枚一枚、気持ちを込めて描いていくアニメーションというもので最終的にフィニッシュしていくんだという中で、どうしてもこれだけの大作ですから。馬が2,000騎出てくるんだけど……というとビックリしてしまうんです。中にはアニメーターになってから馬を描いたことがないという方もいるくらいなので」と証言。だからこそ「手描きのアニメーターたちの力を、いかに最終的な形まで持っていくか」を考えたという。 その上で「描くだけで大事になる馬や軍勢の動きは考えるだけでも大変なので、アニメーターが画を描くことに集中してもらうために、いったんCGのアニマティクス(初期段階で作る検討用の仮映像)で作ったんです。それに人間の動きとか、リアルなカメラワークをプラスした」という神山監督。さらに「やはり『ロード・オブ・ザ・リング』3部作につながる作品ということで、アニメならではの良さを入れつつ、3部作に共通している部分も必要だった。ローハンと城が舞台となっているので、(映画シリーズ3部作の第2作)『二つの塔』とセットがかぶっているんです。だからピーター・ジャクソンのWETAから、CGのデザインをお借りしました。それを共有しつつ、最終的にアニメーターたちに素晴らしい画にしてもらった。スピードを速めるのと同時に、クオリティーアップにも役立ちました」と振り返った。
そのクオリティーに、ウルフの声を担当した津田は、「アフレコの時に多少映像は観ているけど、通しでは観ていなかったので、どうなっているのかと思っていたんですが、実際に観るとやはりすごいですね。けっこう疲れた状態の時に観たんですが、終わりまで全く飽きることなく、ずっと画面に釘付けで面白くて。いい作品に出演させていただいたなと思いました」としみじみ語っていた。(取材・文:壬生智裕)