「数年で死、手術もできない」難病進行、異常な息切れ 命をつなぐため肝臓移植へ…記者が知ってほしい「臓器をもらうとは」(前編)
結局、家族5人が提供を希望したが、高齢の両親はいったん保留、姉と兄、夫がドナー検査を受けることに。結果は3人とも適格、ドナー候補は3人になった。「めったにない」「とても幸せなこと」。医師らはしきりにこう言った。日本では推定で年間2千人近くの人が肝移植を受けられずに亡くなっている。家族の温かい気持ちに涙がにじんだ。 ▽脳死移植か、生体移植か 2023年10月、手術のための検査入院が始まり、連日のように胃カメラや大腸カメラを入れる大がかりな検査を受けた。このころ肺の状態は、薬の力でさらに良くなり、医師の間で私が脳死ドナーを待てるのではないかという議論が持ち上がっていた。 脳死移植を選べば健康な家族の体を守れる。でもそれは、悪化する症状に耐えながら、誰かが亡くなるのを待つことでもあった。思い切って家族が差しのべてくれた手をつかむのがいいのか。四六時中考えても、結論は出せなかった。 すべての検査が終わるころ、再び主治医の説明があった。「早めの移植を」、つまり生体移植を行うことが体にとって一番良いという結論だった。思い切って、家族の優しさに甘えることにした。 家族の間で話し合いが持たれ、兄自身の強い思いでドナーは兄に決まった。「これからの人生、妹をすぐ隣で支えていくのは自分ではなく夫だ。兄である自分ができるのは、今ここでドナーになることだけ」。
決まるべき事が決まり、移植を待つだけになった。父親のドナーになったという同室の20代女性は、「頑張ってください、絶対に」と言って、私を抱きしめてくれた。(つづく)