「数年で死、手術もできない」難病進行、異常な息切れ 命をつなぐため肝臓移植へ…記者が知ってほしい「臓器をもらうとは」(前編)
プライベートでは結婚を控えていたが、このまま進めて良いのだろうかと迷いが生まれた。ところが夫は、私の揺れる気持ちを聞くと「絶対に結婚しよう」と言い切った。その一言に奮い立ち、できるかぎりの治療を受けようと誓った。 治療はハイペースで進んだ。薬を追加し、心臓の負担を減らすのに役立つと聞いて、ジムに通って筋肉を付けた。 6月の検査で肺動脈の血圧は大きく下がり、あと一歩というところに。手術時の安全を考慮して、さらに副作用の強い吸入薬を導入した。 息苦しさがましになるかわり、強い頭痛がほとんど毎日続き、数日に一度は下痢を起こした。特に薬を吸った直後の症状は激しく、横になって時間が過ぎるのを待つしかなかった。 ▽めったにない幸運 肺の血圧が下がったことで手術が現実的になり、8月、準備が本格的に始まった。家族が来やすいよう、私は東京大学医学部付属病院に転院した。 この時点ではまだ、脳死移植と生体移植のどちらを行うかが決まっていなかった。脳死移植はドナーが現れるまで数年待機するため、症状が悪化して亡くなる人もいる。一方、生体移植は、検査をクリアすればすぐに行えるが、健康な人の体にメスを入れなくてはならない。
誰かに臓器をいただくかもしれないという実感が徐々に湧き、憂鬱な気分が続いた。そんな中、家族を集めて手術説明が行われた。 東大病院人工臓器・移植外科の赤松延久准教授によると、ドナーが手術によって死亡することはめったになく、切除された肝臓は、約1カ月で大きさや機能が元通りになる。ただし術後は痛みが伴い、約15センチの傷痕が残るほか、想定外の合併症も起こりうる。 一方、肝臓を受け取る側は、手術による死亡が十分にあり得るという。日本移植学会によると、生体肝移植の場合、術後の1年生存率は約86%。同席した移植コーディネーターも「手術によって命を縮めてしまう可能性がある」と繰り返した。 そう聞いても手術を受けようという思いは揺らがなかった。毎日少しずつ、うまく呼吸ができなくなっていった絶望感。そんな思いはもうたくさんだった。そして何より、命の長さを決められた状態で生きていくことに、耐えられそうになかった。