「数年で死、手術もできない」難病進行、異常な息切れ 命をつなぐため肝臓移植へ…記者が知ってほしい「臓器をもらうとは」(前編)
その後は仕事の面白さを知り、気の赴くままに取材現場を駆けずり回った。当初は薬がよく効き、病気であることを忘れるほどだった。 ところが22年秋ごろから、朝方に異常な疲労感を覚えるように。取材に向かうため手配したタクシーを体調不良で断る日もあった。担当していた事件が大詰めを迎えると、薬を飲み忘れ、あっという間に症状は悪化。体が重く、常に息苦しさのある状態が続いた。 ▽数年で死、手術もできない そして2023年3月、転勤の可能性を踏まえて受けた検査で、思いもよらなかった言葉を伝えられる。 「すごく悪くなっている。困ったことになった」。検査着のまま横たわる私を前にした主治医の声はこわばっていた。 治療のかいなく病気が進行し、肺動脈は治療を始める前の状態に戻ってしまっていたのだ。 着替えを済ませた後、間もなくして個室に呼び出された私に、主治医は単刀直入に切り出した。「生命予後について話します」
続けて並べられた言葉は想像以上に厳しく、受け止めきれなかった。 「数年以内に心不全を起こして亡くなる可能性が高い」 「肝臓移植を考えなくてはいけない」 「ただし今の病状では手術ができない」 事実上の余命宣告だった。 肺高血圧症は肝臓の異常が原因とみられ、肝臓を取り換えれば進行が抑えられるという。ただ、すでに進行しすぎていると、逆に手術によって死亡する可能性が高い。私の場合は進行しすぎていた。 主治医は続けた。あらゆる薬を使い、肺の症状を抑えたいが、うまくいく保証はない―。仕事はどうすればいいかと尋ねると、「生きがいを奪うことはしたくないけれど、命のために休んで」。ただただ、うなずくしかなかった。 それから2週間ほどだろうか。時間や日付の感覚がわからなくなり、ふわふわと宙を漂っているような気分が続いた。生活の中で「将来」など未来を指す言葉が聞こえてくるたびに、胸が詰まり動けなくなった。症状を隠して仕事を続けてきたことを激しく後悔した。