憲法改正議論「財政」の論点 「財政健全化条項」や「予算の空白」への対処
憲法改正なしでも進められてきた財政制度改革
以上、日本国憲法の財政規定を概観するとともに、憲法改正をめぐる議論において、注目される提案をみてきました。もっとも、これらの提案にもまだまだ改善の余地がありますし、他にも検討すべき点はあります。そこで、最後に、これらの提案を評価する視点を二つほど示しておきたいと思います。 一つは、財政民主主義のありかた全体を念頭に置く必要があるということです。財政をめぐる憲法改正を考える場合、予算をどのように制定するのか、その過程における国会、内閣、会計検査院などの関係をどのように設計するかなど、総合的な観点からの検討が必要となるのであって、各改憲案が財政民主主義を全体としてどのように構想しているのかが問われるべきでしょう。 また、これまで見てきたような改正提案の中には、法律の改正や衆参両議院の財政に関する審議のあり方の見直しなどによって対処できるものも少なくない、ということです。これまでも、わが国では様々な財政制度改革が進められてきましたが、それらはすべて憲法改正を経ることなく行われたものです。そうすると、なによりも問われなければならないのは、なぜ憲法改正という手段を取らなければならないのかだと思います。
------------------------------- ■片桐直人(かたぎり・なおと) 大阪大学大学院高等司法研究科准教授 京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学 博士(法学) 憲法・財政法などを専攻 主な著書に「憲法のこれから」日本評論社、2017年(共編著)、「一歩先への憲法入門」(有斐閣、2016年)(共著)など