憲法改正議論「財政」の論点 「財政健全化条項」や「予算の空白」への対処
財政民主主義へ向けた国会権限の強化
第三に、財政民主主義をより実効的なものにすべく、国会の権限を強化すべきだという主張があります。ここでは、国会の決算審査機能の強化といった提案のほか、国会への財政情報提供の強化などが注目されます。 憲法90条1項は「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない」と定めています。近年、改善されつつありますが、過去には、国会(特に衆議院)の決算審査が遅れることがありました。決算の審査は、国の財政について改めるべきところを発見し、それを正すという重要な役割を担っていますが、それを適切に果たすためには、会計検査院の検査報告や国会における審査の結果が、予算編成に活かされる必要があるでしょう。 このような観点から、例えば、自民党改憲草案では、決算について衆参両議院の承認を受けることの明記(90条1項)、会計検査院の検査報告の予算案への反映とその結果の国会報告の義務付け(同3項)などが提案されています。併せて、会計検査院の地位や機能の強化を主張するものもあります。 また、国会への財政情報提供の強化は、財政の健全化とも絡む非常に重要な論点です。 そもそも、財政健全化は憲法にその旨を書けば自動的に達成できるものではありません。また、根強い反対論があることからもわかるように、財政健全化を目指すとしても、国民の痛みへ配慮しながら、広く国民の合意を取り付ける必要があります。そのためには、国債発行の状況、今後の歳出の増加の見込み、税収の見積もりのほか、その前提となる経済予測など、国の財政やそれを取り巻く状況を正確に把握するとともに、それを広く国民に知らしめること、把握された財政状況に沿って、毎年の予算を制定することなどが求められるでしょう。 このような観点からの憲法改正の提案をしている政党はないようですが、たとえば2015年に松下政経塾34期生が共同研究の成果としてまとめた憲法改正草案では、財政健全化の中長期的な目標の策定とその実行について、会計検査院の機能を強化するとともに、国会が関与できるようなしくみが提案されています(98条・99条)。実際、健全財政条項を憲法に規定する多くの国々では、同じような方向性での改革があわせて行われているところで、注目すべき提案でしょう。