フランス代表はなぜ苦戦を強いられたのか。“教授”ラングニックが植え付けるオーストリアの脅威【ユーロ2024分析コラム】
ユーロ2024(EURO2024)グループD第1節、オーストリア代表対フランス代表が現地時間17日に行われ、0-1でフランス代表が勝利した。下馬評通りの順当な結果と言えるが、その試合内容はフランス代表がオウンゴール1点を守り抜いて勝利するという波乱の展開。なぜ優勝候補フランス代表はここまで苦戦を強いられたのだろうか。(文:竹内快) 【動画】オーストリア代表vsフランス代表 ハイライト
●智将ラングニック率いるオーストリア代表 時間があっという間に過ぎた90分間だった。 「ゲーゲンプレスの生みの親」とも言われるラルフ・ラングニック氏に率いられたオーストリア代表は素晴らしいチームだ。豊富な運動量でピッチを駆け回り、素早い攻守の切り替えで相手ゴールに迫っていく。どの選手も球際の強度が高く、集中力が落ちなかった。 その勢いはタレント揃いのフランス代表を喰ってしまうのではないかというレベルであり、眠い目を擦りながら観ていたつもりが、いつの間にかスリリングなゲームの釘付けになっていた人も多いはずだ。ガレス・サウスゲート率いるイングランド代表の試合より、オーストリア代表の試合を観た方がはるかに面白いだろう。 序盤からフルスロットルで試合が進んでいく中で、スコアが動いたのは前半終盤。38分に、フランス代表がキリアン・エムバペの仕掛けを起点にしてオウンゴールを奪取した。エムバペのクロスをマクシミリアン・ヴーバーが上手く処理できず、クリアを試みたボールが自ゴールに吸い込まれた。 しかし、終わってみればこれが決勝点になった。何度か決定機を作ったフランス代表だったが、攻撃陣の決定力不足で追加点を奪えず。むしろ、オーストリア代表がアグレッシブなプレッシングから主導権を握る時間も多くあり、このオウンゴールが無ければジャイアントキリングが起きていてもおかしくない試合内容だった。 フランス代表が強かったこと、完成度が高かったことは言うまでもない。だが、なぜ圧倒的な戦力を有していたフランス代表が格下であるオーストリア代表に苦戦を強いられたのだろうか。 ●優勝候補フランス代表が苦戦した理由 前述したように、オーストリア代表がエネルギッシュなパフォーマンスが可能なのは選手の多くが「レッドブル・グループ」に属していることが大きい。レッドブル・ザルツブルクやRBライプツィヒといった、指揮官がこれまで戦術を指導してきたクラブに在籍経験のある選手が揃っており、彼らを軸にして(代表チームとは思えない)クラブチームのような組織力・連動性を誇っている。 特に中心選手としてチームを引っ張るのが、コンラート・ライマーとマルセル・ザビッツァーだ。中盤の選手である彼らは攻撃時には中央の高い位置でチャンスメイクを狙っているが、守備時は[4-4-2]のサイドハーフとして内側のパスコースを消す役割に徹する。 これがフランスを苦しめた要因だ。 どのポジションもワールドクラスの選手を揃えているとは言え、フランス代表の最大の強みはサイドの攻撃力。先発のウスマン・デンベレ(右)、マルクス・テュラム(左)だけでなく、控えのメンバーにもキングスレイ・コマンやランダル・コロ・ムアニなどが名を連ねている。最前線のエムバペもサイドに流れてプレーするのが得意な選手だ。 レ・ブルー自慢のサイド攻撃の脅威をできる限り少なくするために、「プロフェッサー(教授)」こと、ラングニック監督はライマーとザビッツァーの立ち位置を工夫した。 攻撃時に2選手が中央でパスワークに絡むことで、フランス代表の4バックは警戒を強めてコンパクトな陣形に。これによりボールの逆サイドには大きなスペースが生まれ、そこにオーストリア代表のサイドバックが果敢に侵入した。 相手SBに合わせて、デンベレとテュラムも自陣ペナルティーエリア付近まで帰陣。彼らはポジティブトランジションの際にやや低い位置からスタートして攻撃参加することになり、結果的にオーストリア代表はフランス代表のカウンターの数と精度を下げることに成功している。 ●オーストリアは「台風の目」になれるか この戦術はオーストリア代表にとって、サイドバック裏のスペースをフランス代表のアタッカーに使われてしまうと致命的な危機に陥ることになる。が、素早い帰陣とケヴィン・ダンソらの体を張ったディフェンスがこれを可能にした。 オーストリア代表は組織的なプレスでフランス代表と“ほぼ対等に”戦ってみせた。加えて、単にロングボール1本でゴールを狙うのではなく、速攻と遅攻を使い分けてゴールに迫っていった。グループEにはフランスだけでなく強豪オランダも属しているが、オーストリア代表が決勝トーナメント進出を果たす可能性も十二分にあるのではないか。「台風の目」として大会をかき乱す存在になるかもしれない。 良いチームであることは間違いないが、懸念材料は2つある。1つは選手層の薄さだ。現状のサッカーを続けるにはライマーとザビッツァー、あとはフロリアン・グリリッチュ、ニコラス・サイヴァルト辺りの中盤の主力が不可欠。無尽蔵のスタミナを持つ彼らが欠けると、90分間強度の高いサッカーを展開するのが難しくなる。 そしてもう1つは、攻撃時にアイデアの少なさが若干感じられたことだ。鋭いカウンターや細かくパスを繋いで中央突破を目指す形はフランス相手にも効果があったが、サイドからのクロスは得点の匂いが薄かった。交代選手含む両SBからのクロスの成功率は10%(1/10)となっており(データサイト『Sofa Score』参照)、勝利を掴むためにはサイドからの攻撃にアイデアが欲しい。また、ザビッツァーなどキック精度の高い選手がもっと積極的にミドルシュートを狙っていくことも得点のチャンスに繋がるだろう。 それでも、ラングニック監督率いるオーストリア代表はこの一戦で今大会の「台風の目」になる素質が十分過ぎるほどあることを証明した。大きなポテンシャルを秘めたチームが、かつてヨーロッパで猛威を振るった「ヴンダーチーム(奇跡のチーム)」再現に成功するのか注目だ。 (文:竹内快)
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