新型コロナウイルス患者の対応にあたる看護師ら＝１９日午後６時半、鹿児島市の鹿児島市立病院

　鹿児島県内で新型コロナウイルスの感染が急拡大し、医療機関の負荷が増している。８～１４日に県内８９定点医療機関から報告された感染者数は、１定点当たり３１．７５人で全国最多だった。患者の急増に加え職員の感染もあり、現場からは「すでに逼迫（ひっぱく）状態」といった声も聞かれる。 【写真】会見で質問に答える塩田康一知事＝１９日、鹿児島県庁

　保健所別で５９．５０人と最も多かった西之表保健所。管内の定点報告数は、この２週間で約２．５倍に増えた。南種子町の公立種子島病院では６月に入り、まず６０代以上の感染者が増え始めたという。７月は連日２桁の陽性が確認され、現在では子どもも含めた幅広い年代に広がっている。同病院は「地域の集まりやイベントが復活する一方、マスク着用が徹底されなくなったことが感染拡大の要因の一つ」とみる。 　収束が見通せない中、医療スタッフの負担は深刻さを増している。もともと常駐医２人の態勢で、一般患者に交じって対面診療を続けているほか、発熱外来には看護師を総動員。担当者は「スタッフはかなり疲弊している」と話す。 　同病院の感染症病床は２床。主に合併症などの懸念がある高齢者の受け入れを想定しており、油断できない状況が続く。 　鹿児島市立病院では１９日朝の時点で、３１人が新型コロナウイルスで入院している。救急搬送を何カ所も断られ、受け入れた患者もいるという。職員間でも流行し、７月以降で１３２人が感染した。

　同院によると、コロナ禍の流行と比べ、酸素投与が必要な中等症以上の患者が多く、重症で集中治療室（ＩＣＵ）に入る人もいる。坪内博仁院長（７６）は「今までにない感染拡大で、現場は逼迫している。ピークが先になれば、患者を受け入れられない状況になる」と危機感を募らせる。「急性期の患者を診る医療機関などで情報を共有できる仕組みを整えてほしい」と訴えた。 ◇県、独自の警報「考えていない」 　県内の新型コロナウイルスの感染者数が、感染症法上の「５類」移行後で最多になったことを受け、塩田康一知事は１９日の会見で、現時点で独自に警報などを出す考えはないとした。「病床の状況などを見ながらホームページで注意喚起していく」と述べた。 　同じ５類の季節性インフルエンザには１０人以上で注意報、３０人以上で警報という国の基準があるが、新型コロナでは設定されていない。今年４月から通常の医療提供体制になり、各医療機関の入院の状況などを取りまとめる仕組みもない。

　県感染症対策課は７月初旬、感染拡大を受けて換気や人混みでのマスク着用、手洗いの必要などを訴える啓発ページを作成。同課は「把握している中では医療機関から逼迫の相談や報告はない」としている。 　広島県は今月９日から独自の警報基準を設ける。コロナ禍の最大入院患者数を基に作成。定点当たりの報告数が８人以上で「注意報」、１３人以上か入院患者数（中等症以上）４人以上の場合に「警報」とする。１１日に県全域に注意報を出した。８～１４日の同県の定点当たり感染者数は８．５６人。担当者は「医療提供体制が逼迫する前に、早めの注意喚起が重要」と話す。