イランとイスラエルはなぜお互いに「敵」なのか?
トランプ政権誕生の余波
こうしてイランへの警戒感を強めていたイスラエルにとって、イラン核合意の破棄を主張するトランプ氏が2016年のアメリカ大統領選挙で勝利したことは、攻勢を強める好機の到来を意味しました。 イスラエルのネタニヤフ首相はトランプ政権と歩調を合わせるように、「イランが核合意に違反してきた証拠がある」と強調し、外交的な圧力を加えました。冒頭で紹介したミサイル攻撃は、その延長線上にあります。イスラエルといえども、単独でイランと衝突することはリスクが高すぎるため、アメリカを巻き込む必要があります。そのためには、イスラエル自身が危機をエスカレートさせることが、アメリカのイランへの圧力を強めさせる手段となります。 アメリカ国内にはイスラエルに引きずられることへの警戒もあります。しかし、反イラン色の強いボルトン大統領補佐官らがトランプ政権のなかで影響力を強めれば、アメリカが経済制裁以上の行動に傾きかねません。トランプ大統領とネタニヤフ首相はお互いに相手の動向をうかがいながらイランへの圧力を強めていますが、危機感を強めたイランが核開発を加速させるなどの方針に転じれば、アメリカとイスラエルの波長が一気にシンクロするとみられます。その場合、中東がさらに混乱する懸念が大きいといえるでしょう。
--------------------------------- ■六辻彰二(むつじ・しょうじ) 国際政治学者。博士(国際関係)。アフリカをメインフィールドに、幅広く国際政治を分析。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、東京女子大学などで教鞭をとる。著書に『世界の独裁者』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『対立からわかる! 最新世界情勢』(成美堂出版)。その他、論文多数。Yahoo!ニュース個人オーサー。個人ウェブサイト