『エイリアン:ロムルス』シンプルで骨太な原点回帰、監督フェデ・アルバレスの演出力
最悪が連鎖する
むろん、アルバレスの才気が真に爆発するのはエイリアンが“主役”となる中盤以降だ。「不穏なシチュエーション×登場人物のパニック×恐ろしいエイリアン」という3つの要素が化学反応を起こし、事態は雪だるま式に“最悪”の一途をたどってゆくが、その“最悪”を、巧みなアイデアとケレン味たっぷりのスペクタクルで娯楽精神たっぷりに(かつ、イヤな雰囲気を失うことなく)描き出すところに卓越した演出力がある。 『ドント・ブリーズ』以来、アルバレスがこだわってきた「音」の設計は、本作の演出を支えるひとつのカギだ。「宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない」という第1作のキャッチコピーよろしく、冒頭の宇宙空間では息を呑むほどの無音が劇場を包む。かと思いきや、エイリアンが登場してからはジャンプスケア(突然の大音量)もふんだんに取り入れ、喧騒と静寂のメリハリを映画全体の推進力とする。 その一方、ただ観客をビックリさせるだけの安易なホラーに堕さないバランス感覚は、グロテスクな表現をいわゆるスプラッター映画のトーンに近づけず、一定の上品さをキープする手つきにも表れている。本作ではおなじみのゼノモーフを実写で撮影するため、アニマトロニクスを採用しているが、CGにはない「本物」の威厳が画面に映ることも大切だったのだろう。 そもそも『エイリアン』シリーズは、荒唐無稽な物語に説得力をもたらす緻密な世界構築が見どころでもある。今回の美術監督(プロダクション・デザイナー)は、アルバレスと『ドント・ブリーズ』以来の再タッグとなったナーマン・マーシャル。宇宙ステーションの閉鎖空間やラボ、暗い廊下といった環境をとことん作り込んだ。 クールで渋みのある映像を撮りあげたのは、アルフォンソ・キュアロン監督『ROMA/ローマ』(2018)ではカメラ・オペレーターを担当した注目の撮影監督ガロ・オリバレス。CMやミュージックビデオ、短編映画でキャリアを積み、『グレーテル&ヘンゼル』(2020)で撮影監督を務め、今回が初めての大作映画となった。ときにミニマム、ときにダイナミックなアプローチによって、深い闇の美しさや、そのなかに現れるエイリアンの恐ろしさを表現。映画としてのリッチな風格を担保した立役者のひとりだ。