「クマに30回以上遭遇」「妻にはキレられ…」それでも“幻の虫”採集をやめられない、熱きハンターの矜持
「檜枝岐(ひのえまた)側なのか、栃木側なのかもわからない。今思えば、栃木側なんて絶対にいない。でも当時は知らないから栃木の塩原から入って探したんですよ。全然見つからなくて、南会津にはいねえんじゃねえかって思いながら、何度も繰り返しました」 最初の1頭が街灯下で採れるまでに、10回以上は通った。オオクワガタ採集を始めた頃は、東北で採れるなんて考えてもみなかった。福島での採集をきっかけに、生息地の開拓が本格的に始まる。
■ヒグマの糞にビビる 激レアポイントの一つ、北海道に初めて挑んだのは2015年だった。妻に許可をもらうために「家族旅行に行こう」と誘い、3日後に家族は飛行機で来させることにして、先に自分一人で出発した。 採集のためのライト機材や梯木を車に詰め込み、仕事終わりの20時に自宅の神奈川を出発した。お盆の行楽期のため渋滞にハマり、青森から函館へのフェリーを経て目的地まで18時間もかかった。 現地に入り、細い林道を車で突き進むと、「ヒグマに注意」の看板が横目に入る。車から降りてみると、巨大な糞が落ちていた。
「でかいなんてもんじゃない。そいつを出したヤツを想像しただけでビビりました」 糞は道路脇や細い砂利の林道にも落ちていて、周辺にヒグマが生息していることは間違いない。ちなみに虫オタは、これまで本州ではツキノワグマには30回以上遭遇している。歩いている前に飛び出してきて、3メートルの距離で目が合ったこともあった。 「そのときはケンシロウくん(採集仲間の岩井拳士朗氏)とデカい声で話しながら歩いていたんです。ラジオもかけていたんですよ。全然、熊避け効果なんてないですね。出会ったら道具も全て投げ捨てて、ダッシュで逃げる。向こうも臆病なんで、襲われたことは一度もないです」
だがヒグマに出会ってしまったら命の危険度は格段に上がる。とりあえず車で林道を回りながら、目ぼしい木があった場所で降りてみた。すると近くに大きな罠や真新しい足跡がある。 「やべっ!」と車に戻りそうになるが、脳裏にオオクワガタの顔がよぎった。そうなると「小便ちびりそう」になりながらもやめられない。なんとかヒグマに遭遇せずに済んだが、オオクワガタの手応えもつかめず、初回の探索は撃沈した。 ■標高が高過ぎたのか?