DALIとB&Wの「スピーカー設計思想」の違いとは?DALIの40周年記念イベントが開催
1983年に創業したデンマークのスピーカーブランドDALI。その40周年のエポックメイキングなモデルたちを展示するスペシャルイベントが、輸入元のディーアンドエムホールディングスの社内にて開催された。 改めてブランドの歴史について振り返ってみると、DALIはピーター・リンドルフ氏によってデンマークのノーアエという街で創業された。もともとはデンマークのHi-Fiオーディオショップ「HiFi Klubben」という専門店のスピーカー製造ブランドとして立ち上がったが、その後スピーカー専業ブランドとして独立。現在は「MENUET」の開発にも関わったというラース・ウォーレ氏がCEOをつとめている。 DALIのブランドの創業理念は“In Admiration of Music”、日本語に訳すと「音楽の喜びとともに」といったニュアンスだろうか。オーディオ販売店からスタートしたという背景もあり、ユーザーにとってお求めやすい価格で良質なスピーカー製品を作ることに注力して、40年間休むことなくラインナップを拡大し、ブランドを発展させてきた。 現在のスピーカーのトランスデューサーの原理となるものは、デンマーク人のピーター・L・ジェンセン氏が1915年に申請した特許に端を発している。現在もデンマークにはDALI以外にもDYNAUDIOやBang & Olfsenといった世界に名だたるスピーカーメーカーが多数存在し、音響工学研究においても世界をリードしている。デンマークという国が、オーディオ/音響技術において世界的に高い水準を維持し続けてきたことは、DALIというブランドを理解する上でも重要なポイントである。 イベントには同社の澤田龍一さんが登場、澤田さんなりの観点で「B&WとDALIの設計思想の違い」について解説が行われた。 例えば、近年のDALIのトゥイーターはすべて「ソフトドーム」が採用されている。一方のBowers & Wilkins(以下、B&W)はダイヤモンドやアルミ、チタンといった硬い素材を用いた「ハードドーム」となっている。 その理由について澤田さんは、「ソフトドームはしなやかで嫌な音を出さないといったメリットがある反面、超高域再生には限界があります。一方のハードドームは、ピストンモーションをしている範囲内では正確な再生が可能ですが、高域で共振ピークが発生してしまう課題があります」と説明する。 B&Wはその課題について、ダイヤモンドなどの素材を使うことで、高域の共振ピークを超高域(70kHz)などに追いやることで解決を図っている。共振ピークはその周波数だけではなく、その半分、あるいは1/3の周波数にも影響を与えるため、70kHzまで伸ばすことで、その1/3の周波数でもそのピークを可聴帯域の外に追いやることができるのだ。 一方のDALIについては、「可聴帯域以上の音を再生することが目的ではない」という考え方を採用している。実際DALIのソフトドームの高域特性はせいぜいが30kHzといったところ。一般に人間の耳の限界と呼ばれる20kHzから多少の余裕を持たせることで、十分に質の高い音楽再生を実現できる、という考えである。 ウーファーユニットについては、2002年に「EUPHONIA」で採用されたウッドファイバーコーンを長年採用し続けている。クルトミュラーとの共同開発で誕生したもので、「昨今では樹脂やメタル、ハイテク樹脂などをウーファーに採用している事例が多く、ファイバーは珍しくなっていますね」と澤田さん。エッジのゴム素材についても、あえて高反発系のゴムを採用。振動をむやみに吸収するのではなく、ユニットが自然にモーションすることで音楽の躍動感を獲得したい、という考え方のようだ。 B&WとDALIの設計思想の考え方の違いについて、澤田さんは「B&Wは特性を追求した先に真の音楽再生がある、という考え方とも言えます。一方のDALIは特性上課題のある素材は使わない、という考え方です。まったく真逆の考え方で開発されているのはなかなか興味深いですね」とコメントする。 もうひとつ、DALI独自のテクノロジーとして重要なのが、世界的な特許技術である「SMCテクノロジー」である。SMCは「ソフト・マグネティック・コンパウンド」の頭文字をとったもので、表面を絶縁被膜で覆った鉄粉となっている。 通常、スピーカーを駆動する磁気回路は磁石と鉄、それにボイスコイルで構成されているが、鉄は磁力も通るが電流もよく流れるという特性を持っている。この鉄に発生する“渦電流”が、ユニットの動きを阻害し音質を悪化させる原因になってしまう。 「つまり磁力は通すけれども電流は通さない、そういう鉄を作りたい、と考えて生まれたのがこのSMCということです。いわば“絶縁体の鉄”といえるでしょう」。実際にSMCを活用した磁気回路とアルミリングによって、特に三次高調波歪の低減に大きな改善が見られるのだという。 このSMC素材は同社のスピーカーのほとんどに使われているが、グレードによって使うエリアに差が設けられている。上位グレードの「EPICON」ではボールピースとトッププレートの内周に採用される一方、「OBERON」ではボールピース上部のみ。こういった高価な素材の使い分けが、価格グレードにも反映されているようだ。 イベントの後半は、試聴室にて2ウェイブックシェルフスピーカーの「ROYAL MENUET」(1994年発売開始)と、現行モデルの「MENUET」「MENUET SE」の聴き比べも実施。楽曲は、DALIがアーティスト活動をサポートしてきたデンマーク・コペンハーゲン出身のロックバンド、ルーカス・グラハムの「Funeral」を使用。 「ROYAL MENUET」も、30年前に作られたとは思えない帯域バランスの良さやまとまり感を感じさせるが、「MENUET」になると空間表現がさらに精緻になり、冒頭の人のざわめきや咳払いのニュアンスもよく見えてくる。「MENUET SE」ではさらに大人な雰囲気を獲得し、喉の震えなど細やかなヴォーカル表現の味わいもより深く堪能できるように感じられた。 さらに、フロア型モデルとして「OBERON 5」「OPTICON 6 MK2」、そして今年5月にミュンヘン・ハイエンドで発表されたばかり(国内未発表)の「RUBIKORE 6」も聴き比べ。特にRUBIKORE 6の進化のほどは明らかで、声がさらに伸びやかとなり、ピアノの透明感などもより洗練されたサウンドを聴かせてくれる。楽器の表現がまたひとつ深みを増したようで息を呑む。 DALIというブランド名称は、「Danish Audiophile Loudspeaker Industries」の頭文字を取ったもの。文字通り「オーディオファンのためのスピーカー」にこだわり続けるブランドであり、その理念を40年間ぶれさせることなく進化させ続けてきた。 そして最新モデル「RUBIKORE」でDALIはまた新たな地平を開いたと言えるだろう。2022年に発表されたフラグシップモデル「KORE」の技術は、徐々に下位グレードのプロダクトに降りてきている。「お求めやすい価格のスピーカー」にこそ、DALIの本領がますます発揮されるものと期待して良さそうだ。
ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈