【悼む】思いをストレートに伝えた北の富士さん 相撲を知らない人でも納得できる言葉の強さ
<悼む> 残念な訃報が届いた。元横綱の北の富士さんが逝去された。協会を退職後はNHKの解説者として、鋭い舌鋒(ぜっぽう)で視聴者を楽しませてくれた。もう聞けないかと思えば寂しさしかない。 【写真】優勝額の前で握手する北の富士と玉乃島(玉の海)(1970年) 個人的に直接、話をしたのは電話だった。本紙の企画でライバルで盟友だった元横綱玉の海さんの話を聞いた。その中で印象深かったのが、北の富士さんの心残りは愛知県にある玉の海さんの墓に行けていないこと。毎年、名古屋場所が開催されるたびに墓参への思いがよぎりながら、墓がある愛知県蒲郡市までは「遠くてね。なかなか、行けないんだよ」と話していた。 体調を崩されて、解説の現場から外れた。何度か電話をしてある日、朝の5時ごろにコールバックの着信があった。「俺は大丈夫だよ。きついけどな」。その力強い言葉を信じていたのだが…。 とにかく、言葉の強い人だった。相撲を知らない人でも「うん、うん」と納得できる強さがあった。まだ協会に在籍していた時、新聞社の評論で自ら筆をとって書いていた光景を何度も目にした。自分の言葉を読み手に伝える。そんな強い意識を感じた。 NHKの解説でも、その姿勢は変わらなかった。自分の思いを、見ている人たちにストレートに伝える。今の時代、なかなか難しいことだが北の富士さんはぶれることはなかった。 現在、大入りが続く隆盛の大相撲を支えてくれた功労者の1人。ご冥福をお祈りします。【実藤健一】