【ビッグスリー形成でNBA王座に】 　そこでセルティックスは2007年夏にふたつの大型トレードを断行。オールスターガードのレイ・アレン（元ミルウォーキー・バックスほか）、2003-04シーズンにMVPを受賞したビッグマンのケビン・ガーネット（元ミネソタ・ティンバーウルブズほか）を獲得し、ピアースとの"ビッグスリーを形成する。 　これが奏功し、セルティックスは2007-08シーズンにリーグベストの66勝16敗（勝率80.5%）と一躍優勝候補へ飛躍を遂げた。プレーオフのカンファレンス準決勝ではクリーブランド・キャバリアーズのレブロン相手にピアースが攻防両面で貴重な働きを見せ、第7戦で41得点を奪ってシリーズ突破の立役者に。 　レイカーズとの"名門対決"として注目されたファイナルでも、ピアースはコービーと渡り合い、セルティックスが4勝2敗で制して球団史上17度目の優勝を達成。シリーズ平均21.8得点、6.3アシストを残したピアースがファイナルMVPに選ばれた。 「ここまでのキャリアで俺たちは個人としてできることは全部やってきた。アウォード（個人賞）も手に入れてきたんだ。だけど頂上まで辿り着いたことはなかった。この優勝は気分を一新してくれるものだ」 　ビッグスリーを中心に絶妙なケミストリーを奏でたセルティックスは、2010年に再びファイナルでレイカーズと対戦するも、３勝４敗で惜敗。2012年のカンファレンス決勝では3勝2敗で王手をかけるも、レブロン率いるマイアミ・ヒートに2連敗を喫して姿を消した。 　ピアースは2013年夏にガーネットらとともにブルックリン・ネッツへトレード。ネッツとワシントン・ウィザーズで各1シーズン、ベテランとしてプレーオフで見せ場を作り、最後はクリッパーズで2シーズンを過ごし、迎えた2017年夏にセルティックスと契約を結んで現役生活にピリオドを打った。 「自分のことをボストン・セルティックとまた呼べる機会を得て光栄だ。この球団と街が俺のことを引き受けてくれた。キャリアを終えるにあたってこれ以外の方法は想像できなかった。俺は生涯セルティックなのさ」 　NBAキャリア19シーズンで平均19.7得点、5.6リバウンド、3.5アシスト、1.3スティールを残したピアースは、オールスターに10度、オールNBAチームに4度選ばれ、NBA歴代18位の通算2万6397得点を積み上げてきた。 　セルティックス在籍15シーズンと通算2万4021得点はいずれも球団史上2位、3ポイント成功1823本、フリースロー成功6434本、1583スティールでいずれも堂々1位に立つ男は、名門セルティックスを代表する選手のひとりなのは間違いない。 　201cm・107kgの屈強な身体と強靭なメンタルタフネスを兼備したピアースは、持ち前のシュート力に加え、強靭な体幹とフットワーク、さらには相手と絶妙な間合いを取り、左右のステップバックを使い分けるなど熟練のスキルで相手を打ち負かしてきた。 　通算ブザービーター7本はNBA歴代4位タイ、さらにブザービーターを生み出したアシストを史上最多となる5本も決めるなど、勝利への執念の塊でもあった。自信に満ちあふれた振る舞いと憎たらしいまでの勝負強さが光った"稀代の勝負師"は、その秘訣をこう話す。 「その瞬間や失敗することを恐れちゃいけない。俺だって決勝弾を沈めた回数よりも多くミスしてきた。だけどチームメイトたちにはいつも『次は決めてやる』と言ってきた。自分に自信があることを示してきたのさ。自分のことを信じていなきゃ、彼らだって信じちゃくれないだろ」 　引退後、2018年2月にピアースの背番号34がセルティックスの永久欠番になり、2021年には殿堂入り、さらには75周年記念チームにも名を連ねた。スポーツ専門チャンネル『ESPN』などでアナリストを務め、現在は『FOX Sports』の番組やガーネットとのポッドキャスト番組"KG Certified"で持論を展開しており、コート外でバスケットボールを楽しんでいる。 【Profile】ポール・ピアース（Paul Pierce）／1977年10月13日生まれ、アメリア・カリフォルニア州出身。1998年NBAドラフト1巡目10位。●NBA所属歴：ボストン・セルティックス（1998-99～2012-13） ―ブルックリン・ネッツ（2013-14）―ワシントン・ウィザーズ（2014-15）―ロサンゼルス・クリッパーズ（2015-16～2016-17）●NBA王座１回（2008）／ファイナルMVP１回（2008）／オールスター・３ポイントコンテスト優勝１回（2010） ＊所属歴以外のシーズン表記は後年（1979-80=1980）