森山大道の名言「過去はいつも新しく…」【本と名言365】
これまでになかった手法で新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。戦後日本の写真表現に革新をもたらし、国内外で数々の賞を受賞してきた写真家の森山大道。彼の作品に宿る圧倒的なパワーを、その独特な時間感覚からひもとく。 【フォトギャラリーを見る】 過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい。 アレ・ブレ・ボケ。森山大道は、撮影において失敗とされてきたこれらの現象を手法へと昇華し、新宿を始めとする都市の路地裏に蠢く混沌にレンズを向け続けてきた。森山の写真を前にする者は誰しも、「きれい」「構図がいい」といった通り一遍の評言を奪われ、立ち尽くさざるを得ない。この圧倒的なパワーの源は、どこにあるのだろうか。 手掛かりとなるのは、森山が座右の銘に掲げ、自著のタイトルにも冠している「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい」という言葉だ。「過去も未来も、相対的な現在(いま)に向けて無限の問いかけをしつづけているのだ」とも語られるこの独特の時間感覚を、森山は「歴史」と呼ぶ。 「といっても、自分がいま歴史ある瞬間を撮っているんだというふうに歴史を考えてはいないよ。写真を撮っているときは写真を撮っているって感じすらないしね。ただ、全体のなかで僕を包み込んでいる時間と光っていう感覚としての歴史観ってのがあるんだよね、撮らされちゃっているなあって感じでね」と語る森山は、矢継ぎ早にこう付け加える。「でも歴史という感覚に僕が包み込まれているという実感があるから、それが写真を撮る興味や愛着にもつながっているんだ」と。 シャッターを切る瞬間は、現在(いま)に他ならない。しかしそこには、過去と未来からの問いかけが流れ込んで名もなき歴史を形成し、森山はその目撃者となる。森山の作品を見る者が言葉を奪われてしまうのは、彼と時間が繰り広げたそののっぴきならない邂逅を、追体験しているからなのだろう。
もりやま・だいどう
1938年、大阪府生まれ。商業デザイナーとして活動した後、写真家の岩宮武二や細江英公のアシスタントを経て、1964年に写真家として独立。主な写真集に『にっぽん劇場写真帖』『写真よさようなら』『犬の記憶』など。また、『絶対平面都市』『写真との対話』など、エッセイ集やインタビュー集も多い。
photo_Yuki Sonoyama text_ Keisuke Kagiwada illustration_Yoshi...