知床で人工林の成長が低下、セミの幼虫を食べるヒグマの掘り返しで 動物による環境影響が明らかに
研究成果は、米生態学会誌「エコロジー」に3月1日に掲載された。
温暖化で夏が長くなり、エサは多様化
北海道でヒグマの研究と調査を30年以上続ける酪農学園大学(北海道江別市)の佐藤喜和教授(野生動物生態学)によると、そもそもヒグマは森を生息地にしている。骨の安定同位体を用いた食性解析によって、明治時代以前のアイヌ民族が暮らしていたころは、シカやサケといった動物質を比較的多く食べていたという。
それが、1980年代、90年代のヒグマの食性調査では動物質のエサは少なく、草や木の実といった植物質のエサの割合が増加。サケやマスの乱獲、シカの狩猟による減少といった歴史的背景が関わっていると見られる。
しかし、1990年代後半にシカが爆発的に増え始めると、再びクマはシカを食べるように。当時は、狩猟や駆除後に放置された死体や冬を越せず餓死したシカを食べていたが、2010年頃からはシカの出産期にあたる6月に生まれたてのシカを襲って食べていることが分かった。
現在は江戸時代以前と同じく、「ヒグマがシカを食べるようになってきているが、その状況は昔と違うと考えられる」と佐藤教授は話す。以前は冬眠明けに森の中の下草を食べることはできたが、シカが増えた現在はエサの下草を巡る競争が生じている。
その上、温暖化が問題になっている昨今では、春の芽吹きが早くなることで、草が枯渇しがちな酷暑となる夏が長くなる。近年では5~7月には、セミ幼虫をはじめ、アリや牧草を食べ、ツキノワグマのように木の皮を剥いで食べるなどし、8月にはトウモロコシ畑に出没して農林被害を出すなど、これまでにないエサの多様化が進んでいる。
管理は生態系のつながりを考慮すべき
市街地で生ゴミなどをあさるアーバンベアや田畑を荒らす害獣のヒグマの管理が近年注目される。ただ、出てきたクマを駆除するだけでは「春から夏にかけては分散する中でどこに行くか迷った若いオスが、夏から秋のエサ不足の中ではオスメス親子の区別無く、別のクマが出てくるだけでしょう」と佐藤教授は話す。
人工林や田畑、市街地など自然に人の手が加えられていく中、生態系への影響を考慮した管理でなければ、動物の行動変容が生態系に思いがけない帰結をもたらし、期待した効果を得られない恐れがあるだろう。 (長崎緑子/サイエンスポータル編集部)