動物たちの飼育環境に知恵をしぼれ!アニマルウェルフェア(動物福祉)の今
名古屋にある東山動物園の人気者に、ホッキョクグマの「フブキ」がいる。2023年に秋田県の水族館からやって来たオスで、2020年の暮れに生まれ、まだ3歳なのだが300キロを超す大きな体で、水の中でドラム缶やブイと戯れる姿はとても愛らしい。実はフブキ君にとっての"おもちゃ"であるドラム缶などは、「アニマルウェルフェア」にとって"大切な道具"なのである。
"動物福祉"は世界の潮流
「アニマルウェルフェア」は、動物たちを、本来の習性にあった快適な環境で飼育しようという取り組みである。「アニマル(動物)」の「ウェル(良い)」「フェア(状態)」、すなわち動物の「良い状態」という意味であり、日本では「動物福祉」とも訳される。1960年代に、畜産などで動物への虐待が問題となった英国で生まれた考え方と言われる。2015年(平成27年)に、世界各国の動物園や水族館が加盟する組織「世界動物園水族館協会(WAZA=World Association of Zoos and Aquariums)が指針を示して、世界的に広がった。WAZAは、2023年夏に、世界各国に動物園や水族館での"飼育環境"について、改善も要請している。
アニマルウェルフェア5つの指針
日本には、140の施設が加盟している「日本動物園水族館協会(JAZA)」がある。国際的な指針を受けて「アニマルウェルフェア」について、身体的に4つ、精神的に1つ、合わせて5つのポイントを決めている。身体的なポイントは「栄養」「環境」「健康」「行動」、精神的なポイントでは「精神状態」があり、それぞれに「栄養は十分か?逆に食べ過ぎていないか?」「動物の休息や睡眠は十分か?」など具体的なチェック項目も用意されている。JAZAでは、協会の依頼を受けた獣医師などが動物園や水族館の現地調査も行うなど、「動物福祉」への対応が続いている。
東山動物園の取り組み
名古屋市の東山動物園でも「アニマルウェルフェア」を重要な課題として、取り組んできている。「動物園内の環境を整えて、自然界と同じような行動をとらせることで、健全な繁殖にもつなげることが目的」と、東山動物園の担当者は話す。例えば、本来、木の上で活動するチンパンジーのために、2008年(平成20年)にはチンパンジー舎にタワーを設置して、立体的な行動も可能にした。新たに整備したジャガー舎では、水中で狩りをするジャガーのために、深い屋内プールを用意した。ホッキョクグマには、おもちゃとなる道具を与えて、退屈する時間が短くなるよう工夫した。東山動植物園全体の再生プランの中で新たに整備したアジアゾウ、トラ、オランウータンなどの住まいでは、野生に近い探索行動をとらせるため、エサをあえていろいろな場所に置いたり、すぐに食べてしまわないようにネットの中に入れてみたり、園内では様々な「アニマルウェルフェア」の取り組みが行われている。そして動物園を訪れる私たちも、そんな風景を目撃する。