「下方修正の嵐」に苦しむアステラスの焦り 強気目標を発信し続ける姿勢に社内外から疑問の声
しかしこの経営陣の狙いとは裏腹に、社内からは疑問の声が上がる。「社内向けに野心的な目標を掲げるならわかるが、なぜ社外に大風呂敷を広げるのかがわからない。そのせいで、市場からも信用されなくなっている」(アステラス社員)。 ■迫り来る屋台骨の特許切れに焦り 野心的な数字を社外に出してまで現場に発破をかけてきた背景には、同社の焦りがうかがえる。屋台骨である前立腺がん薬「イクスタンジ」の特許切れが2027年に迫っているからだ。
イクスタンジの2024年3月期の売上高は約7500億円に上り、全社売上高の47%を占めている。しかし特許が切れれば安価な後発品が市場に出回り、売り上げが急落する可能性がある。 イクスタンジのような超大型薬を抱える製薬企業は、特許切れに伴う売り上げ喪失を何年も前から見越して、複数の後継薬を大型化させておく必要がある。アステラスも当然手を打ってきたが、それらの育成は道半ばだ。 同社が今、大型薬の候補として見込んでいるのが、アメリカの製薬企業と共同開発する抗がん剤の「パドセブ」と、昨年7月に約8000億円で子会社化したアメリカのバイオベンチャーが開発した眼科領域の薬「アイザーヴェイ」。ピーク時の年間売り上げは最大でパドセブが5000億円、アイザーヴェイは4000億円と予想している。
しかし2024年3月期の実績は、パドセブが854億円、アイザーヴェイが121億円にとどまる。今2025年3月期はそれぞれ1512億円、464億円に大きく伸ばす計画だが、3年後に迫ったイクスタンジの特許切れを補うには心もとない状況だ。 アステラスではほかにも、大型化を期待していた薬があった。2023年5月にアメリカで承認を取得し、販売が始まった更年期障害薬の「ベオーザ」だ。 女性の社会進出に伴って更年期障害を治療する機運が高まっていることや、副作用が問題視されてきた既存薬と異なる作用方法を持つことから、アステラスは当初、ベオーザのピーク時の年間売上高は最大5000億円に上ると見積もった。1年前に東洋経済が実施したインタビューで、岡村CEOは「爆発的に普及する可能性がある薬だ。ある意味、そうでなければ私は成功と見なさない」とも語っていた。