ベトナム最大手IT企業のFPTソフトがAI活用で生産性を30％向上 　ベトナム最大手IT企業のFPTソフトウェアが、ソフト開発の生産性と品質向上に一段と力を入れている。 　同社が2024年4月に設立したITアウトソーシングやビジネスプロセスアウトソーシング（BPO）、保守運用、テストなどを手掛けるFPTソフトウェア・イノベーション（Fi）の社長を兼務するFPTソフトウェアのシニアバイスプレジデントのDoan Phu Tai（ゾアン・フゥ・タイ）氏が10月初旬、ベトナム・ハノイの本社に訪問したITビジネス研究会のベトナム先進IT企業視察団に「目標は20％から30％の生産性を向上させること」と語った。 　1999年に事業を開始したFPTソフトは、売上高約10億ドル（2023年）、従業員約3万人の規模で世界30カ国・地域で活動を展開する。特に日本市場は福岡や北海道、沖縄などにニアショア拠点まで設けるなどし、売り上げを500億円超と全体の半分を占める勢いで伸ばす。Fiのビジネスの多くも日本からになるという。そうした中で「新しいプロセスを定義し、もっと生産性をアップさせる」と、Tai氏はFiの目的の1つを説明する。 　同社の資料によると、FiはITシステムの納品や運営などの効率向上を目指し、FPTソフトの売り上げ目標50億ドルに対して、オフショア収益の50％を貢献するとしている。手始めに約5500人を配置し、特にメインフレームのレガシーマイグレーションを担うITエンジニアの確保・育成に注力する。計画では、毎年1500人を新規採用し、うち約1000人を「COBOL」などのレガシーモダナイゼーションに当たる人材とし、2025年に約3500人の体制にするという。 　それらの生産性向上の具体策は幾つかある。1つは、管理プロセスの構築。デリバリーと運用、エンジニアリングの3つのモジュールで構成する管理プラットフォームを用意し、さまざまな観点からプロジェクト管理できるようにする。プロジェクトマネージャー（PM）が1つの管理ツールで複数のプロジェクトを管理できるなどのメリットもあるという。 　2つ目は、AI活用の開発ツールによって自動変換率を90％にすること。「ChatGPT」など複数の市販の生成AIと、自社開発のコーディング支援ツール「CodeVista」やテスト支援ツール「Test Vista」を活用する。これによって、開発やテスト工程の生産性を最大30％向上できることを社内の調査で確認したという。 　3つ目はシェアリングや再利用の文化を定着させること。例えば、開発者やテスター、PMのコミュニティーを作り、生産性向上のためのソリューションやフレームワーク、アイデアを提案する。テクノロジーのトレンドやスキル、生産性向上のソリューションを共有するテクノロジーイベントを開催し、情報共有などを推進するとしている。 　FPTソフトは年率20％から30％で成長を続けており、約1000人のAIエンジニアを配置するAIセンターを設置したり、FPTグループの教育会社が運営するFPT大学などから人材を獲得したりと、成長へのエコシステムを形成している。 田中 克己 IT産業ジャーナリスト 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師（情報産業）。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」（日経BP社）、「ニッポンのIT企業」（ITmedia、電子書籍）、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」（日経BPコンサルティング、監修）。