孤立無援な盟友プーチンの足元を見る習近平、「ウラジオストク軍港の常時利用」と「台湾有事参戦」をひそかに要求か
■ まだまだ侮れないロシアの「潜水艦技術」 そして、プーチン氏と習氏の会談で話題に上った可能性もある「台湾有事でのロシア参戦」は、ロシア側にとってみれば、前述したウラジオストク軍港の中国への貸与よりもハードルが低いかも知れない。 「台湾有事」とは、中国による台湾への武力侵攻で、直近の今年3月には米海軍高官が、「中国は2027年までに台湾侵攻の準備を整える」と、米議会下院の軍事委員会で発言し、警鐘を鳴らす。 前出の軍事専門家は、「中国が作戦実行の際、ロシア軍に軍事的支援を求めるのは確実だが、もっとも期待するのが潜水艦を使った台湾封鎖や日米へのけん制作戦だろう」と推察する。 イギリスのシンクタンクIISS発行の『ミリタリーバランス』によれば、冷戦終結時の1989年における旧ソ連海軍の陣容は、潜水艦300隻以上(うち原子力潜水艦約170隻)、空母/軽空母5隻、その他、巡洋艦、駆逐艦を含めた大型水上戦闘艦約220隻を抱え、世界最強の米海軍に対抗する大海軍だった。 だが、2023年時点のロシア海軍の戦力は、原子力潜水艦12隻、魚雷や対艦ミサイルによる敵艦船攻撃が主任務の攻撃型原潜19隻、通常型(ディーゼル・エンジン搭載)潜水艦19隻で、潜水艦総数は40隻弱と、往時の8分の1に過ぎない。同様に大型水上戦闘艦も70隻強で、かつての3分の1にとどまる。 とはいえ、ロシアの潜水艦技術は侮れず、静粛性や潜航深度の技術は、今でもアメリカと肩を並べるとさえ言われる。軍事協力が進む中ロ両国だが、「戦闘機用エンジン」と「潜水艦技術」はロシアにとっても“秘中の秘”で、これらのコア技術を中国に教えることはあり得ない。
■ 中ロの関係は「キツネとタヌキの化かし合い」 一方、2023年時の中国海軍の陣容は、潜水艦60隻弱(うち原子力潜水艦6隻、攻撃型原潜6隻)、空母2隻(間もなくもう1隻が実戦配備)、その他大型水上戦闘艦約150隻で、数的にはロシア海軍よりはるかに強力だ。 だが、台湾侵攻作戦時に、台湾の周辺海域の封鎖や、日本の海上自衛隊や米海軍をけん制する際に主役となる潜水艦の戦力は心もとない。 中国に対抗する陣営の潜水艦の数を見ると、日本は通常型を24隻、アメリカは攻撃型原潜を52隻有し、うち太平洋に30隻は投入できるだろう。隻数だけならほぼ互角だが、問題は“質”で、日米の対潜水艦能力は、冷戦時に旧ソ連潜水艦を相手に鍛えたノウハウを踏襲するだけに、現在でも世界最高峰だ。 また、台湾有事となれば当事者の台湾をはじめ、豪州、イギリス、カナダ、フランス、韓国など、アメリカの同盟国がこぞって潜水艦を送り込んで加勢するはずで、その隻数は10隻以上になると予想される。 こうなると中国海軍の劣勢は明らかで、どうしてもロシア潜水艦隊の“参戦”が必要となる。 実際、中ロ両海軍は数年前から10隻ほどの軍艦を連ね「海上合同パトロール」と称するデモンストレーションを何度も実施。日本周辺や東シナ海、台湾近海を遊弋(ゆうよく:艦船が動き回ること)し、台湾有事を意識した“予行演習”と見る向きもある。もちろん目には見えないが、艦隊の眼下で中ロの潜水艦が潜航していると見ていいだろう。 潜水艦の世界は全てが極秘で、ロシアが台湾有事に際して「潜水艦を出撃させた」と公表することはまず考えられない。あくまでもひそかに出動、もしかしたら台湾側に味方する艦船への魚雷攻撃や、台湾の主要港湾付近に機雷をばらまき封鎖したりする作戦に協力するかもしれない。 もちろん日米両国は中ロ潜水艦の排除に乗り出すはずで、万が一ロシア潜水艦を海上自衛隊が撃沈したとしても、その事実が世に出ることもないだろう。全てが秘密裏に処理されるのが“世界の常識”である。仮に日本が「ロシア潜水艦を撃沈」と公表したり、ロシアが「日本に潜水艦を撃沈された」と非難したりすれば、最大の武器である潜水艦の実力を教えてしまう結果になる。 中ロの関係を「キツネとタヌキの化かし合い」と揶揄する向きがある。5月20日、台湾の頼清徳新政権が正式にスタートしたが、「同床異夢」の両国はこうした動向も踏まえながら、次にいかなるカードを切るのか、注視すべきだろう。
深川 孝行