孤立無援な盟友プーチンの足元を見る習近平、「ウラジオストク軍港の常時利用」と「台湾有事参戦」をひそかに要求か
■ “サラミ戦術”でウラジオストクを中国海軍の「母港」に だが2023年6月、ついにロシアは中国の要求に折れて港湾を開放。ただし商用の貨物船で隣接する中国の黒竜江・吉林両省の産品を、同じ中国の港に海上輸送することに限定している。事実上「中国国内の海運輸送」と見なし、関税はかけないという取り決めだ。 だが、中国の一部メディアやSNSでは「ウラジオストクを165年ぶりに奪還」と盛り上がっている。 また中国の政府機関で、同国の正式な地図の発行を管轄する自然資源省も、清国時代のウラジオストク「海参崴(ハイシェンウェイ):海辺の小さな村」を地図に併記することを義務付けた。 そもそもウラジオストク自体がロシア語で「東を支配しろ」との意味で、前出の国際ジャーナリストも、「『中国を侵略せよ』と言っているようなもので、習氏はもちろん、中国国民にとっては、ロシアの植民地支配、帝国主義の名残で不愉快だろう。今回のウクライナ侵略とオーバラップしてしまう人間も少なくないのでは」と語る。 ロシアが同港の開放に踏み切らざるを得なかった背景には、長期化するウクライナ侵略戦争のさらなる継続には「中国の手厚い支援が不可欠」という事情がある。 「換言すれば、中国にとってウクライナ戦争は、ロシアがかすめ取った祖国の地を奪還する千載一遇のチャンスである。それを考えると、戦争が長期化した方が中国はさらなる失地回復を含め、さまざまな条件をロシアに呑ませることができる」(前出の国際ジャーナリスト) 「さまざまな条件」の最有力候補が、ウラジオストク軍港を中国海軍が自由に使用できる権利だろう。海洋進出を図るために海軍増強に精を出す習氏にとって、日本海や北太平洋、さらには北極海で活動する際の中継地として、同港は非常に魅力的だ。 地図を眺めると、同港は一見中国本土から遠く隔絶された場所に思えるが、実は黒竜江・吉林両省とは目と鼻の先で、直線距離で60kmほどしか離れていない。 現在、ウラジオストク~黒竜江・吉林両省を最短で結ぶ鉄道はなく、かなり迂回した道路が通るだけだが、仮に近い将来、同港が中国海軍の軍艦が常時停泊する「母港」となった場合、中国は「一帯一路戦略」を掲げ、鉄道敷設や高速道路建設、さらには同軍港の整備・拡張など、得意のインフラ整備に何兆円も投入する可能性が高いだろう。 前出の軍事専門家も、こう指摘する。 「今回のウラジオストク港の制限付き開放は、あくまでも入口。今後は外国との貿易港、中国海警局(沿岸警備隊)の警備艇の常駐、漁船基地などと、たっぷり時間をかけて徐々に間口を広げ、気付けば中国海軍の基地に変貌しているかもしれない。中国の常套手段である“サラミ戦術”(サラミを薄く切るように、目立たぬよう事を進める戦術)だ。 インフラ整備はロシア側にもメリットがあるが、当然中国側が50~100年の運営権、港湾使用権などを要求してくるのは確実だろう。昨今のスリランカやギリシャの例を見れば明らかで、多額の債務を返済できず、港湾施設などの権益譲渡を迫られる『債務のワナ』の典型と言える」