クマは右手でハチミツをなめ、左手で敵と戦う…「クマの利き手は左」説は本当か…被害者の証言と傷跡から検証する
クマの利き手
「クマは顔面を狙って攻撃してくるが、初手は左が多い」 クマによる人身被害を取材中、3度クマに襲われた経験を持つ男性から気になる証言を得た。 【写真】北海道中を恐怖の渦に叩き落とした「最凶クマ」OSO18の「最期の姿」 前編記事『「クマの初手は左が多い」...一撃で「鼻が半分取れ」「眼球破裂」「顔の右側が消えた」《被害者たちの貴重証言》「クマは左手で攻撃する」』に引き続き、「クマは左手で攻撃する」説について当事者の証言と傷跡から検証する――。 昨年度、クマによる人身被害が最も多かった秋田県。重傷者を受け入れる三次救急医療施設である秋田大学医学部付属病院高度救命救急センターは、2023年に搬送された外傷患者について調査した。同センターでクマ外傷の治療にあたる土田英臣医師が説明する。 「クマによる外傷患者20名のうち、90%の方が顔面を負傷していましたが、明らかな左右差は認められませんでした。つまり、クマは左手も右手も使って攻撃したとみられます。 クマには利き手があるのか。動物学者の先生に確認しましたが、利き手はないとのことでした。どうやら中国の言い伝えからそうした話が出たようです」 中国の宮廷料理ではクマの手を使ったメニューが最高級とされてきた。「クマは右手でハチミツをなめる。甘みが染みついた右手のほうが、価値が高い」という説の一方、「クマは主に左手で敵と戦う。筋肉の引き締まった左手こそ最高級品だ」との説もある。これが「クマは左利き」説につながったという。 「動物学者の先生によれば、顔を狙っているかどうかは定かではありませんが、立居で攻撃するとき、ちょうどいい位置にあるのが顔だということです。まず爪で顔を攻撃し、そして噛みつく。このパターンが多いとのことでした」
クマによる怪我の9割は「顔面」
「クマは左手で攻撃する」という説について明確な根拠は得られなかったが、クマが顔面を攻撃してくるのは間違いないようだ。土田医師はクマの攻撃力についてこう説明する。 「20名のうち9名の患者が顔面骨折を負っていました。クマの爪でひっかかれた衝撃の大きさは、時速60キロメートル程度の車に衝突された交通事故、あるいは3メートルの高さからの転落事故に匹敵すると考えられます」 では、万が一、すさまじい破壊力を持つクマに遭遇してしまったとき、どう自分を守るべきか。3000頭以上のクマに遭遇し、9回襲われた経験があるNPO法人日本ツキノワグマ研究所理事長の米田一彦氏は、こうアドバイスする。 「クマは相手と争うとき、相手を抱き込み、鼻にかみついて窒息死させようとするのが基本形です。これは相手が人間であろうと、同じクマであろうと同じです。 クマが相手を窒息させようと抱きつく、あるいは頭をつかむ際、爪が首に入り、頸動脈をやられてしまう可能性があります。顔面や頸部の負傷は出血がひどく、致命傷になりかねません。 もし運悪くクマに襲われてしまった場合、立った状態で攻撃を受けるのが最も危険です。ただちにうつぶせになり、頭を地面につけ、首の後ろで手を組んで首と顔を守ることが重要です。 こうして防御姿勢を取ってもクマはお尻などに攻撃してくるかもしれませんが、この状況においては無傷で済むのは不可能です。命を守ることが大前提であり、致命傷を負わないことを優先すべきです」