The Novembersのさらなる進化。結成20周年を目前にして魅せる圧倒的で誠実なロックバンドの姿
9月19日にThe Novembersが〈The Novembers Release Tour 2024〉を恵比寿リキッドルームにて開催した。その日の様子をレポート
「伸びしろしか、ない」
これまでも転機と呼ぶべきライヴはあった。たとえば結成11周年で新木場スタジオコーストに立った2016年。あるいはギターを置いた小林祐介がステージ上を闊歩するようになった2019年。前者は独立以降のバンドの姿勢を、後者はフロントマンの覚醒を、それぞれ象徴する夜になっていたのだ。 今回もまさにそういうライヴだった。何もかも桁外れによかった。ただ、それが何を象徴するのかと言えば、そんな考察に意味があるかと我ながら笑いたくなってしまう。バンドがめちゃくちゃカッコいいロックを鳴らして観客全員を昇天させた。ただそれだけの一夜だったからだ。 演奏は実に丁寧。「かたちあるもの、ぼくらをたばねて」から、深呼吸をしてメンバーそれぞれの存在を確かめ合うアンサンブルが響き出す。バラードに近い優しい曲だ。とはいえ中盤から音量は暴力的に上がっていく。とくにアウトロはケンゴマツモトの独壇場。狂おしくギターを掻き鳴らすケンゴの熱量と、彼を逆光で照らすライトの鮮やかさ。ほんの5分、たった一曲で、もう圧巻のハイライトに包まれているのだった。 全曲で響く甘くとろけるメロディ。そこに重なる高松浩史のハーモニーの精度も素晴らしいが、小林の歌詞がさらに聴き取りやすくなっていたのは特筆すべき点。言葉を伝え、届ける意思が違うようだ。さらに「Hallelujah」や「GAME」では観客を巻き込んだコール&レスポンスも登場。メンバー4人で完結していた調和の精神が、フロアを巻き込むものになっていたのは興味深い。 エフェクトを駆使した美しい轟音は確かにThe Novembersの魅力だが、今はもう抽象的なイメージで終わらせたくないのだろう。言葉、コーラス、観客の声や表情。ひとつひとつを確認しながら全員をよりよい世界へと連れていく。「音楽だから、あとは好きに解釈してくれ」と言うのはクールかもしれないが、今の彼らは「この音楽であなたの人生にいい影響を与えたい」と積極的に語ることを選んでいる。おそらくは、〈だってバンドに憧れたのは、それがいいものに見えたからでしょう?〉という原点を確認したうえでの選択だ。 歪んだ曲にも決して皮肉の精神は入り込んでこない。ノー・ウェイヴ/インダストリアルの名曲として知られるスーサイド「Ghost Rider」のカヴァーが、この日はモーターヘッドのように響くことに笑ってしまった。本人たちが〈とにかく爆音が一番カッコいい〉と信じきっていないと出てこない説得力である。光の溢れるポップソング「Seaside」で〈ケセラセラ、ショータイム!〉と唄えるのも同じこと。続く一曲が「James Dean」というタイトルなのも最高だった。一番カッコよかったスターたち。それに連なる輝きをまとい、彼らから引き継いだ夢を唄う。こういうことを堂々と表現しているのが今のThe Novembersだ。 後半のハイライトは「楽園」から始まるディープなダンスゾーン。途切れることないビートが延々と脳を揺さぶっていく。そのうち天国だか煉獄だかに到達しそうな、ほとんど悪魔的な陶酔の時間である。フロアを熱狂で溶かしきったあと、最後は爆音ナンバーでトドメを刺す、というのが近年の流れであった。 しかし今回はニューアルバムから「BOY」。一気にBPMを上げたエネルギッシュなロックンロール。イントロ部分、小林は二回もお立ち台に上り派手にギターを掻き鳴らす。まるで「いくよ? これがロックバンドのカッコよさだよ?」と言っているみたいだった。なんて眩しいのかと思う。これがハッタリではなく考え抜いた誠意として響くところがいい。その表情、一挙手一投足に前向きなエネルギーしか感じないから、こちらもスッと背筋が伸びるばかりなのだ。 アンコール、小林は「実は来年、結成20周年」と重ねた時間を振り返っていた。前身バンド結成当時は高松と二人、アートスクールと対バンしたいと夢を語り合っていたそうだ。そこから始まりこの境地に到達できる。音もスタンスも見ている景色も、本当に唯一無比のバンドになっていけるのだ。来たる20周年も決してゴールではないのだろう。終演後の小林は、にっこり笑ってこう言った。「伸びしろしか、ない」。 【SET LIST】 01 かたちあるもの、ぼくらをたばねて 02 Hallerujah 03 Morning Sun 04 1000年 05 Ghost Rider 06 November 07 Everything 08 Seaside 09 James Dean 10 GAME 11 誰も知らない 12 黒い虹 13 Cashmere 14 楽園 ~ KANEDA 15 New York 16 BOY 17 Xeno ENCORE 01 抱き合うように 02 いこうよ ※記事初出時、本文中に誤りがありました。お詫びして訂正します。
石井恵梨子