『トップガン マーヴェリック』のアツい映画論 同じ“魂”は『侍タイムスリッパー』にも
『トップガン マーヴェリック』と『侍タイムスリッパー』に共通する精神性
マーヴェリックの青天井なチャレンジ・スピリットは、そのままトム・クルーズに当てはまる。『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』では高さ828mのブルジュ・ハリファをよじ登り、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』では上空7,620mから決死のジャンプをして、『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』ではバイクで断崖絶壁から飛び降りる。老いゆく肉体に抗うように、そのアクションはますます過激さを増すばかり。 還暦を過ぎた今もなお、デンジャラスすぎるスタントに挑み続けるトム・クルーズ。CGやスタントマンに頼ることなく、自らの肉体を酷使することが、「最高のエンターテインメント」だと信じているのだ。ジャッキー・チェンやバスター・キートンをもしのぐ、命知らずっぷり。全権プロデューサーを兼任しているからこそ、誰もトムに「NO!」を突きつけられない。 だが、そんなスタンスがあまりにも時代錯誤であることを、トム・クルーズ自身も理解している。AI技術のさらなる発展によって、危険なスタントを人間がやることはなくなっていくかもしれない。“でも、今日じゃない(But not today)”。無人機開発を進めるケイン少将から「パイロットは絶滅する」と告げられても、マーヴェリックは毅然とした態度でこの言葉を返す。無人機=AI、有人機=生身のスタントに置き換えれば、このセリフがトム・クルーズの映画論であることは明白だ。 実は最近、「でも、今日じゃない」というセリフがある日本映画に登場していた。自主映画ながらクチコミで劇場館数をどんどん増やし、今年の流行語大賞にもノミネートされた大ヒット作『侍タイムスリッパー』だ。それは衰退していく時代劇に対するメッセージであり、50代半ばにしてヒットメーカーとなった安田淳一監督の、これまでの忸怩たる想いでもあっただろう。 実際には『侍タイムスリッパー』の構想は7年前に出来上がっており、安田監督は直接『トップガン マーヴェリック』を引用した訳ではなかった。むしろ、あからさまに同じセリフだったために、最初は削ろうと考えていたくらいだという。ひょっとしたら参照元は、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』で「人間の勇気がくじけて、友を見捨てる日が来るかもしれない。だが、今日ではない!」と味方を鼓舞するアラゴルンのセリフかもしれない。しかしこの言葉には、確実にトム・クルーズ=マーヴェリックと同じスピリットが息づいている。 アメリカのメディアによれば、『トップガン』シリーズ第3弾の製作が進められているとのこと。ジョセフ・コシンスキー監督が引き続きメガホンを取り、ルースター役のマイルズ・テラー、ハングマン役のグレン・パウエルも出演予定だという。トム・クルーズがアクションの最前線から身を引く日は、どうやらだいぶ先になりそうだ。 参考 https://screenrant.com/top-gun-maverick-opening-scene-original-movie-similarities/ https://deadline.com/2024/01/top-gun-3-tom-cruise-1235722328/
竹島ルイ