熊の捕獲に出動しても報酬は1日3000円で身の危険も…「地域守る使命感にも限界ある」猟友会の苦悩
相次ぎ人が襲われる
住宅地周辺に熊が出た―。9月5日朝、一報を受けた長野県の大北地区猟友会松川支部長の茅野靖昌さん(78)=北安曇郡松川村=は困惑した。現場は村役場にもほど近い。「本当にそんな所に熊が出たのか。見間違えじゃないか」。半信半疑のまま現場に急行すると、救急車が到着し、熊に襲われた女性を運び込んでいた。一気に緊張が走った。 【写真】女性2人が熊に襲われた寺(左奥)と民家(右)=松川村
対策していたら違った結果が?苦悩
松川村ではこの日、女性2人が相次いで熊に襲われて負傷した。熊は村を南北に流れる乳川に沿って移動し、宅地に迷い込んだ可能性がある。捕獲した熊の胃の内容物を調べたところ、もみを食べていたことも判明。今夏にも乳川沿いで熊の目撃情報があり、茅野さんは「同じ熊とは限らないが、この時に適切な対策を取っていたら違ったのか…」と今も悩み続けている。
里地で相次いだ熊の目撃
長野県内では今年、里地で熊の目撃が相次いだ。5~9月は1278件に上り、平年(774件)の1・7倍に。人身被害は今月5日時点で12件・13人となり、昨年の11件・12人を上回った。県森林づくり推進課は、山に餌のドングリなどが一定程度あり「大量出没年」にはあたらないが、親離れした若い熊が新たな生息場所を求めて活発に移動し、目撃が増えたとみている。
重み増す猟友会の負担「いつまで続けられるか」
熊対策の前線に立つ猟友会の負担は重みを増している。全国で熊の被害が相次いだことを受け、環境省は市街地での銃猟使用の要件を緩和する方針だが、銃を伴う有害鳥獣対策として同村から支払われる報酬は1回3千円のみ。熊出没に合わせ、身の危険を伴う現場に急行できる人材を確保することは「容易なことではない」と猟友会の茅野さん。「地域を守る使命感にも限界はある。いつまでこの態勢で続けられるのか…」
捕獲制限、判断基準明確化へ
捕獲を巡る問題については、県が昨年11月~今年3月にかけて県庁で開いた「ツキノワグマ対策あり方検討会」でも議論になった。緊急時に限られている市町村の捕獲権限について、緊急性を判断する基準を明確化し、迅速な対応を促すことになった。