【トランプ新政権が巻き起こす米中関係の波乱】国際秩序の混乱をどう読み、備えるか
新しい「常識」の到来
実のところ、世界帝国としてのアメリカの影響力低下は、今に始まったことではない。ただし、20世紀後半から21世紀初頭にかけてのアメリカの外交理念を明確に否定し、対外政策の大転換を具体的に試み始めたのは、17年のトランプ政権が最初であった。 その後のバイデン政権は、前政権が毀損した信頼性やシステムを回復し、従来型の国際秩序を維持するため、可能な限りの努力をしてきた。しかし新しい時代の「アメリカン・デモクラシー」は、そうした従来型の理念や枠組みを拒絶し、再びトランプという人物を選択したのである。 この結果として、中国は短期的にはトランプ新政権による、強い圧力を受けるであろう。特に過剰生産性により輸出にドライブをかけている現状では、貿易摩擦が争点化しやすく、これを叩くことを公約としてきたトランプおよび共和党からは、明確に標的化されることになる。 もっとも、トランプ新政権の矛先は中国だけでなく、対米黒字を抱える欧州連合(EU)や日本といった、世界各国・地域にも向けられるであろう。こうした中で中国には、それらとの利害一致による協調機運を醸成することで、アメリカを牽制するという手段もある。 また中長期的には、もはや構造化した米中関係の相克は後戻りできないものだが、上記のようにアメリカの振幅加速による外交姿勢や国際秩序の動揺が繰り返されることで、アメリカへの不信感が増幅されるだけでなく、対中政策の振れ幅も大きくなり間隙が生じる。 したがって中国は、これを縫ってアメリカの圧力をかわしつつ、自ら衰退を早めるアメリカとは相対的に、有利な立場を占めることも可能となる。この結果として見えてくる近未来の世界のカタチは、私たちがこれまで「常識」していたものと、大きく異なるものになるであろう。 さて、このような近未来の米中関係の展開と国際秩序の構図が予期される中で、日本はどのようにして中国だけでなく、理念の変容した「新しいアメリカ」という存在にも向き合うべきであろうか。鍵となるのは、実のところ日本という存在は自らが考えるより、アメリカから見ても中国から見ても、無視することのできない「変数」となりうる点が、最大の武器となる。もはや覆がえることのない新しい現実の中で、私たちは「生き残り」に向けた対米関係および対中関係への道を、真剣に模索しなければならない。 ※本文内容は筆者の私見に基づくものであり、所属組織の見解を示すものではありません。
久末亮一