【トランプ新政権が巻き起こす米中関係の波乱】国際秩序の混乱をどう読み、備えるか
中国の反応
こうしたトランプ新政権下のアメリカの動きを、もっとも直接的に受けるであろう国の一つが中国である。2018年からのトランプ政権下では、米中関係を戦略的に管理しようとする理論型の外交・安全保障専門家に支えられたオバマ政権期とは異なり、中国の台頭をきわめて直接的な行動によって抑止しようとした。それは、経済面では対中高関税や投資規制などの導入、外交・安全保障面ではインド太平洋へのシフト拡大といった形で、露骨に顕在化していった。 このため中国側は、今回の大統領選に表面上は平静を装いつつ、実は高い関心を示していた。仮に民主党のハリス候補が当選すれば、従来のバイデン政権の「管理された競争」という対中政策の継続は明白であった。それは経済と安全保障の両面で対中包囲が緩むことはないが、ある程度の予見可能な範囲で推移するため、中国も対応が容易である。しかしトランプ新政権となれば、選挙公約としていた高関税などの対中強硬策だけでなく、予見しかねる事態や反応が飛び出してくる危険性が高い。
こうした懸念もあってか、中国政府は自らがコントロールするハッカー集団「ソルト・タイフーン」を使って、トランプやその副大統領候補J・D・バンスなどの携帯電話に侵入を試みるスパイ活動をおこなっていた事実も発覚している。アメリカの捜査当局によれば、この活動で得た通話記録やテキストメッセージは、中国当局に提供されていた。中国の対米スパイ活動は日常的におこなわれているが、特に今回の一件は、中国がトランプ新政権の誕生に対して、さまざまな懸念を抱いていることを裏付ける。 そして11月6日のトランプ優勢の選挙推移を迎えて、中国の反応は迅速だが抑制的であった。中国外務省は同日の会見で、「アメリカ国民の選択を尊重する」とした一方で、「わが国の対米政策は一貫している」と述べ、きわめて当たり障りのない反応を示した。また翌7日には、習近平国家主席が勝利を確定させたトランプに祝意を送り、その中では相互尊重と平和共存、対話維持による対立管理、持続的な関係発展を望む旨を伝えたとされる。