センバツ2019 支える人々/上 願った聖地、選手と共に バス運転手・大島啓成さん /福井
<第91回選抜高校野球> どんよりした重い雲が覆う、福井の冬。日本海側特有の雨雪も混じる天候が続く中、啓新は2月下旬に実戦練習を積むべく静岡で合宿を張った。沼津市内のグラウンドで乾いた土の感触を確かめつつ躍動する選手たちを、啓新高校の職員でバスの運転手を務める大島啓成さん(73)は穏やかな表情を浮かべて見守った。「今年のチームは特に仲が良いね」 路線からリムジンまで、半世紀近くにわたりバスのハンドルを握った。知人の紹介により2011年から勤める啓新高校では主に、生徒たちを乗せて校舎から体育館までの約700メートルを行き来する。 硬式野球部ができたのは、啓新に就いた翌年のことだった。部員はわずか16人で十分なグラウンドもなかったが、元来の野球好きですぐ愛着がわいた。 当初は選手らを乗せ、各地の空きグラウンドへバスを運転することを日課とした。練習に集中してもらうため球拾いを手伝い、14年に専用グラウンドができると周辺の草むしりにも加わった。孫ほど離れた選手たちが、ひたむきに野球と向き合う姿が好きだった。 しかし、創部当初に荻原昭人校長が「5年以内に出場を目指す」と宣言した甲子園は遠く、県内の強豪校に惜敗する年が続いた。気がつけば古希を過ぎ、頭によぎった思いもある。「自分が働いている間に甲子園へ行けるのかな」。それだけに今年1月、飛び込んだセンバツ出場決定の朗報にはこみ上げるものがあった。「うれしいという気持ちが、グッとわき上がってきた」 遠征などでは植松照智監督や山下晃太部長が運転手を務めるが、多忙な折にはハンドルを握る。甲子園ではトラックで荷物の運搬役を務める予定で「本当に楽しみ。選手たちは思い切りプレーしてほしい」と願う。選手たちが球児の聖地に立つ日は、もちろん、アルプススタンドから声援を送るつもりだ。 ◇ ◇ 第91回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)は23日に開幕する。創部7年目にして甲子園初出場を決めた啓新を、陰ひなたとなって支えた人々を紹介する。