年末年始“一気見ドラマ”おすすめベスト10 「見逃してしまうのはもったいない」2024年放送のドラマ
多くの人が「今秋のベスト」にあげたであろう当作は、未視聴の人に自信を持っておすすめしておきたい3つの理由がある。 1つ目は、主人公の家族が織りなす新たなホームドラマの形。市役所で働くマジメな青年・小森洸人(柳楽優弥)、自閉スペクトラム症でルーティンへのこだわりが強い弟・小森美路人(坂東龍汰)、2人の元に突然やってきた謎の少年・ライオン(佐藤大空)という男3人の関係性が絶妙で、距離感が縮まり、気づきを得て成長していく様子が視聴者を癒した。 2つ目は、行方不明事件、虐待疑惑、3人を監視する男などの不穏なサスペンス&ミステリー。湊かなえの「イヤミス」を令和にアップデートしたようなムードがあり、長編サスペンス&ミステリーの得意な「金曜ドラマ」らしさを加えていた。 3つ目は、坂東龍汰の演技。「1カ月間、他の仕事を入れずに役作りした」という努力の甲斐あって、自閉スペクトラム症の演技は当事者家族が絶賛するほどの仕上がりに。柳楽優弥という絶対的な存在と対峙しても見劣りしないどころか作品をけん引し、尾野真千子、岡山天音、でんでん、桜井ユキら手練れの役者をしのぐ大活躍だった。 ■1位:『クラスメイトの女子、全員好きでした』(読売テレビ・日テレ)
24年最大の掘り出し物であり、個人的には迷いなくベストにあげられる名作。 “甘酸っぱくもホロ苦い学園ドラマ”ד個人の肯定と再生を描くヒューマンドラマ”をかけ合わせた作品ジャンル、知名度や美しさではなく役に合う俳優をオーディションで選んだキャスティング、エッセイを連続ドラマに脚色した適切なプロデュース。いずれも最高レベルの仕事であり、これらの強みを併せ持つ作品は意外に少ない。 もう1つ特筆すべきは、主人公・枝松スネオ(木村昴、中学時代・及川桃利)の愛すべきキャラクター。外見も中身もイケてないながらも優れた肯定感の持ち主で、クラスメイトたちに少しの笑いと感動をもたらしていく……というキャラクター設定は令和の視聴者感情に合っていた。 さらに脚色で加えた盗作にかかわるエピソードの結末も感動的であり、さまざまな伏線を見事に回収。初見の人は配信で一気見すれば特大のカタルシスを得られるのではないか。リアルな中学校の教室を再現した演出なども含め、さまざまな点で読売テレビのこだわりと気合いが感じられた。 2024年はその他でも、脚本家・生方美久の繊細なセリフが魅力の『海のはじまり』(フジ)、予想の斜め上をゆく展開が続いた『アンチヒーロー』(TBS)、杉咲花と若葉竜也が出色の演技を見せた『アンメット』(カンテレ・フジ)、ハードな設定と映像美のギャップが光った『君が心をくれたから』(フジ)、目を背けたくなるバイオレンスで押し切った『降り積もれ孤独な死よ』(読売テレビ・日テレ)。 中盤の“一変”で続編の期待高まる『全領域異常解決室』(フジ)、過去最高の定時制ドラマ『宙わたる教室』(NHK総合)、あえて小学校を舞台にした意欲作『放課後カルテ』(日テレ)、先の読めないスリリングな展開で引きつけた『3000万』(NHK総合)など、丁寧な脚本・演出の力作が多かった。 ここで挙げたものは一部にすぎないだけに、年末年始の休みを利用して動画配信サービスで視聴してみてはいかがだろうか。ドラマ制作のみなさん、俳優のみなさん、今年も1年間おつかれさまでした。2025年も多くの人々を楽しませる作品をよろしくお願いいたします。 ■ 木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。
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